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インターホンの鳴る音で目が覚めた。モニターに映るスーツ姿の男性は、パパの同僚のリュウさんだ。
「…はい」
『あ。ごめんね、奈那ちゃん。イチトが酔いつぶれちゃったから送ってきたんだけど』
「ええっ。すみません、今開けます」
エレベーターホールまで迎えに行くと、リュウさんに支えられたパパがよろよろと出てきた。
「もう。何やってんの」
「だいぶ覚めてきたんだけどね。一人で帰すのはちょっと心配で」
「ありがとうございます」
「奈那ちゃんを一人にしちゃったって、急に落ち込んでさ。こんなの紗良ちゃんの時以来だな」
自分から電話切ったくせに…
そのまま引き返すリュウさんに頭を下げて、私はゆらゆら歩くパパを追いかけた。
「あー。飲みすぎたー」
時刻は朝の六時。今までのパパからは考えられない朝帰りだ。テーブルの上にはケーキの箱が置いてある。結構有名なお店のラッピングだった。
あれ
いつも「誕生日はショートケーキ!」って譲らなかったのに、今年は私の好きなチョコレートケーキなんだ。私はコップに水を汲んでパパに手渡した。
「ありがとー」
美味しそうにごくごく飲み干して、床に座り込んだパパは息をついた。
「それで? 何でこんな遅くなったの」
「んー。何か家に帰りたくなくて」
「は? パパが早く帰ってきてって言ったんでしょ」
おさまりかけてた不満がまた顔を覗かせた。
「何、その勝手な理由」
「おまえさ。あの男と何してた」
聞いたことのない低い声だった。一瞬ドキッとしたが、約束通り帰ってきたことは嘘じゃない。
「何って、ちゃんと時間には家にいたよ」
「帰ってきて、マンションの入口で何してた」
見られてた!
パパも一度戻ってきてたんだ
頬が熱くなった。でも、それだってそんなに咎められるほど悪いこと?
「イチトさんだって、ママといっぱいしたでしょ。私はまだそれ以上のことは…」
「当たり前だろっ。そんなの絶対許さないから」
何なの
何なの 急に
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