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「じゃあ、私のせいだって言うの」
「あんな…、幸せそうな顔して。紗良とそっくりな顔で」
声が急に小さくなった。
やっぱり 私を見るとママを思い出すんだね
「変な気分なんだ。紗良と同じ顔のおまえが、他の男と笑ってるの見ると寂しくなる」
「…私はママじゃない」
「わかってるよ、そのくらい俺だって。ただ、俺はもう紗良を笑顔に出来ないんだなって思うんだ」
どれだけ誰かを笑わせても
いちばん笑って欲しい人はもういない
「だから奈那が笑ってくれたら、俺はもう何もいらない。おまえを幸せにするのは俺しかいないって、思ってたのに」
パパが私のことも、ママと同じくらい大切に思ってくれてるのがわかった。だけど、こんなの大人げない。まるで、泣きわめいてひっくり返ってる駄々っ子だ。
でも、これがパパなんだよね。
私はパパの隣に座った。
「ね。サプライズって何?」
「えー、もういい。あいつのキスの方が何倍もインパクトあるだろ」
パパは拗ねてごろんと床に転がった。私に背中を向けている。
「おばあちゃんが来てくれたの。何を相談したの」
パパはしばらく黙っていたけど、胸の内ポケットから何か取り出した。真っ白な封筒だった。宛名は私になっている。
「…何、これ」
「ママからの手紙」
「いつの間に…」
「病気がわかってすぐかな。ビデオレターにすればって言ったんだけど、アナログの方が色褪せないからって」
「うん。ママの文字だね」
「今日をいちばん楽しみにしてたのは紗良だな」
高校生の私にあてて、十年前のママが何て書いてくれたのか気になった。封を切って手紙を取り出した。
奈那 十六歳のお誕生日おめでとう
素敵な女の子になってるだろうな
伊智人くんは相変わらず親バカかな
パパは小さい時からつらい思いをしてきてるのに
いつもみんなに優しくてね
自分の優しさをあげすぎちゃうので
時々とても疲れて子どもに返ってしまうの
素直に泣けなくて映画を見て泣いてたりするの
思春期の娘としては
付き合いきれないこともあるよね
パパのことだから
奈那を困らせてるんじゃないかな
だけどね
時々でいいからパパを甘えさせてあげて
もちろん 奈那はママの代わりじゃないから
奈那は奈那の人生を生きてね
それはパパもわかってるから
二人にはずっと仲良くして欲しいから
その気持ちを届けたくてお手紙書きました
優しい文字が記憶の中のママとリンクした。
黙っていたパパがぽつんと言った。
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