はやく私を見つけてください

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『シオリ、お願いだから連絡ちょうだい』  ……シオリ宛てに、メッセージを送る。  もう何個目のメッセージだろうか。  既読はやはり、つかない。どんなに待っても、返事もない。  ――シオリがいなくなって、一週間が経った。  一緒に帰った日の夜、シオリはいなくなってしまったのだ。  どうやら家出とか、そういうものではないらしく……シオリについて、学校でも聞かれることがあった。  シオリは失踪してしまったのだ。スマホを持って。  ――大丈夫、だよね。  私はそう信じるしかなかった。シオリが何か事件に巻き込まれたなんて、そんなことは考えたくなかった。  でも家出するなんて考えられない。あの日、私達は楽しく趣味の話をしていたのだ。シオリに家出するような気配はなかったし……シオリが既読無視するなんて、信じられない。  怖いことを考えるのはやめよう。  こういう時は、楽しいことをしよう。  気持ちを切り替えて、私はスマホで小説投稿サイトを開く。いまは、楽しい物語を読んで、その世界に入り込みたかった。トップページに並ぶピックアップ小説の中に、何か面白そうなものがないか、探してみる――。  その中に。 『読者の方、編集者の方、はやく私を見つけてください。面白い小説を書いているんです』  そんなキャッチコピーが。  シオリの失踪のことばかり考えていて、あの日話した内容を、すっかり忘れていた。思わず私は座り直す。  これが例の小説か。シオリが送ってくれたURLは開けなかったけれど、本当にあったんだ。  ――シオリはこれを読んで、面白いと思ったのかな。  ――またシオリとweb小説の話、したいなぁ……。  そのキャッチコピーをタップする。シオリは失踪する前、きっと最後にこれを読んでいたのだ。  だから、私も読んだのなら、感想会ができるような気がして。  ただ、作品ページを開いて後悔する。 「うわあ……」  何を言いたいのかわからないあらすじが書いてあった。専門用語がたくさんあるのはもちろん。多分、かっこいいあらすじを書きたかったんだろうけど、気取りすぎてて引く、というか。  なんというか……作者の自己満足を感じた。  ……昔の私の小説も、こんな感じだったのかな。そう思うと、読まれなくて当たり前だったと思ってしまった。  とはいえ、小説は本文を読んでみないとわからない。  それもある程度は読まないと、わからないものなのだ。  ……私だって、小説を公開した時に「ここまで読んでもらえたのなら、きっと面白いと思ってもらえるはず!」と考えたポイントがあった。  ただ、全員序盤で離脱してしまったから、そこまでたどり着いてくれなかったけれども。  私は、プライドを持って、この作品を読むことにした。  せめて三分の一は読もう。そのくらいまで読まないと、小説はわからない。  まるで過去の私を慰めるような気持ちで、一ページ目を開く――。 『見つけてくれてありがとう』  最初に、そう書かれていた。 『でも、もう誰も評価してくれないって、わかってるんだ』  ……作者が自分を下げているのは、正直受けが悪いと思う。これじゃあ、読まれるものも、読まれないんじゃないかな。  それでも私は読み続ける。まだ二行しか読んでいないのだから。 『これまでずっと、そうだったから』  それに、気持ちがわからないわけじゃないから。 『けれど私達の小説は本当に面白い小説だったんだ』  私達?  グループで作品を書いているのかな、と思ったその時に――次の文章が、震えだす。 『この作品の魅力を知らないままでいるのは、無視するのは、もはや罪だと思う』  ゴシック体、明朝体、サイズも変わって、まるで壊れたみたいに。  その文章の下に。 『アヤカ逃げて』  でもその文書はぱっと消えてしまって。それ以外の文章もすべて消えてしまって。  白紙のページ。ただそれだけ。  そこに。 『罰を受けろ』  ふっ、と、スマホの画面が真っ暗になってしまう。  その闇が、どろりと溢れ出す。  闇は文章になっていた。  ――どうして。頑張ったのに。認めてもらえない。  私の手に、腕に、身体に絡みつく。  ――私を見てよ。なんであの作品が。ずるい。 「い、や……」  悲鳴を上げようにも、もう口にも文章が巻き付いてしまっていた。  ――ふざけるな。調子に乗りやがって。へたくそなくせに。媚び売ったくせに。  私の全身が、怨嗟の文章に包まれていく。  果てに、ずるん、と。  闇が私を呑み込み、反転するように私のスマホも呑み込んだ。  * * *  小説投稿サイトのトップページ。ピックアップ作品のキャッチコピーが並んでいる。  その中に一つ。 『助けて、ここから出して。私はここ。捕まった。お願い、誰か』  その文章は揺らいだかと思えば変わる。 『読者の方、編集者の方、はやく私を見つけてください。面白い小説を書いているんです』 【終】
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