昔話し

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昔話し

「むか〜しむか〜し。ある所に・・・」 古い祖母の家。 夏の湿った空気に混ざって僅かに線香の匂いが漂う。 昼間ひとしきり遊んだ私は、布団の中で祖母の声を聞きながら微睡んでいた。 祖母は、私が寝る前に色んな昔話を聞かせてくれる。母親は妹を寝かしつけるのが忙しいから、私の事はいつも後回し。だから、祖母の話はとても嬉しい。 祖母の声に混ざるようにして、家鳴りが鳴る。 夕ご飯を食べている時に降り出した雨が強くなってきたのか、開けっ放しの窓から聞こえる雨音がうるさくなってきた。 パキン! 一際大きな家鳴りの音が、眠りに入りかけた私の邪魔をする。 「ははは。婆ちゃんちさ古いから、色んな音がするべ」 「・・うん。うるさいね。ふふ」 「大丈夫だ。すぐ慣れっから」 優しい笑顔で、布団を掛け直してくれる。 久しぶりに来た祖母の家。 山に囲まれ、見渡す限り畑が広がるそれだけの場所。コンビニもビルも何も無い。あるのは沢山のお地蔵様。大きいのから小さいのまで、カラフルな色の毛糸で編まれた前掛けを着けたお地蔵様。 こんな、絵本から抜け出たような長閑な場所が本当にあるんだと、初めて来た時は衝撃を受けた。 だが、一番驚いたのは霧だ。 祖母の話では、この村は霧が晴れることの無い珍しい村だと言う。 太古村というちゃんとした名前があるのにも関わらず、皆「霧隠れ村」等と呼ぶと言う。 その名の通り、晴れた日でも薄らと霧がかかり村全体をそっと隠しているように見える。 「お婆ちゃん。何の話してくれるの?昨日は浦島太郎だったでしょ?その前は桃太郎。その前は・・」 「一寸法師さ」 「そうそう。私が知ってるお話ばっかり。違うのがいい」 「違う話ぃ?ん〜」 シワが多い顔に、更にシワを作って祖母は考える。 「んだば、いい機会だべこれにすっか」 そう言って、私の横に寝そべった祖母は左手で頭を支えながらこちらを見る。 「千夜里ちゃんがだ〜れにも聞いた事ない話だべ。たども、ちぃーとだけ怖いけどいいか?」 「怖い話?大丈夫だよ。私怖いのへーきだもん」 「ははは。そーかそーか。これは、婆ちゃんが10歳の時の話だべ」 「私と同じだ」 「んだ。千夜里ちゃんも来週の誕生日がきたら10歳だべ」 シワだらけのガサガサした手で、私の頭を優しく撫でる。 「婆ちゃんは4歳の時にお母さんが死んでしもた。それから6年が経ち10歳になった時、この霧隠れ村に遊びにきたんだ。千夜里ちゃんと同じで、学校が夏休みだったからな」 「お婆ちゃんのお母さんって言ったら、私のひいお婆ちゃんだね?」 「んだ。とても綺麗で優しい人だったよ」 「へー」 「婆ちゃんがこの村に来た時、あの日も村は霧に覆われていて・・・」 祖母はゴロリと仰向けになると、天井を見上げ遠い昔を思い出すようにゆっくりと話だした。 「何処から話すべなぁ・・初めっから話すか・・婆ちゃんがまだ4歳だった頃・・」
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