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「そうだな。どこから話そうか・・・」
俊樹叔父さんは視線をあちこちに動かし黙っている。
そんなに難しい話なのだろうか。
それとも、子供の私に話しづらい事なのだろうか。
私はヤキモキしながら俊樹叔父さんの口が開くのを待った。
「・・・やっぱり、お前が帰る時に話してやろう」
「え?」
「明日帰るのなら今話してやるが・・」
「ちょっと待って俊樹叔父さん。ズルいよそんなの」
「ズルい?」
「そう!そんな交換条件はやだ。私がまだ帰りたくないの知っててそう言うんだ・・・もういいよ!私はまだ帰らないから!服買ってくれてありがとうございました!」
奪うように紙袋を手に取り、小屋を飛び出した。
(何なの?何なのあのオヤジ!ムカつく!)
地面が割れる程の力強い足取りで母屋へと入る。
ドカドカと大きな足音をたて部屋に入ると、そのままゴロンと横になった。
畳の上に寝転がり私は天井を睨んだ。何なんだ、あの俊樹叔父さん! わざとじらすような言い方をして・・頭に血がのぼったまま、気持ちは収まらない。私は枕を手に取り、力強く顔に押し付けた。
「気になる・・でも絶対帰らない!」
誰に聞かせるでもなく、独り言が自然と口をついて出た。胸の奥がぎゅっと痛む。
俊樹叔父さんはいつもあんな風に、何か隠すような言い方をするのだろうか。一緒に食事もしないし話す機会もない。
得体の知れない人・・
正にそうだ。でも、俊樹叔父さんはお母さんの弟。私なんかよりずっとお母さんの事を知っているんだ。俊樹叔父さんはお母さんの何を知ってるんだろ。
(あーもう、考えても仕方ない…)
枕を顔からどけ、天井を見上げたまま大きくため息をつく。部屋の静けさが、今は妙に心地悪い。
その時、外からかすかな足音が聞こえた。誰かが廊下を歩き、私がいる部屋に向かってくる。私は起き上がり、耳を澄ませた。足音は徐々に近づいてくる。
襖が少しだけ開いて、顔を出したのは祖母だった。
「どうしたんだ?そったら大きな音立でて・・何かあったのが?」
心配そうな声に、私は少しばつの悪い気持ちになりながら、肩をすくめた。
「ううん、別に大したことじゃないよ」
祖母は少しの間、私を見つめてから小さくうなずき、襖を閉めた。
残された静寂の中、私はもう一度畳の上に倒れ込み、頭の中でぐるぐると俊樹叔父さんの言葉を反芻した。
〜お前が帰る時に話してやろう〜
俊樹叔父さんは、何を話そうとしていたんだろう?
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