再び廃校へ

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再び廃校へ

お昼ご飯を食べ、そそくさと部屋へ戻った私は出かける準備をした。 雨が降っているのでカッパは勿論、タオルと懐中電灯と少しのお菓子をリュックに入れ祖母に見つからないようにそっと家を出た。 午前中より少し強くなった雨が顔にかかる。至る所に大きな水溜りができ、長靴を履いていない私は慎重に避けながら歩いて行く。 じっとりとした暑さと湿気で、腕にカッパがくっついて不快だが我慢して歩き続ける。 学校が見えてきた。 一瞬立ち止まった私は、大きく息を吐き腹に力を入れ目はまっすぐ前を見る。両手を力強く握りゆっくりと歩き始める。 祖母と昼ご飯を食べている時に、今までの事を整理しようと考えた。考えたけど肝心なところが色々抜けていてまとまらない。 私は考えるのが苦手だ。あれこれ考えすぎると、何が正しいのか分からなくなる。 「頭が悪いのかな」 思わず声に出す。 今までにいくら考えても分からない事は沢山あった。そんな時は自分の感情に聞いてみる事にしている。時には、感情や直感が答えを出してくれる時もあるから。 だから私は、もう一度あの子達と会うため学校に来ることを決めた。 (平太には悪いけど、自分の直感で動くわ) ーーでも、会ってどうするのか。 確かめたい。 あの神社にある箱とどういう関係があるのか。 箱を開ければ、皆が家に帰れるのか。 何故学校にいるのか。 他の子は分からないけど、どんぐり目の子と赤いほっぺの子に聞く事が出来るかもしれない。 校庭に入り、目の前にある廃校を見上げる。 見るともなしに、あの教室をちらりと見るが誰もいない。 灰色の空を背景に佇む廃校は、物言わぬ巨人のようにそびえ立っている。長い年月を経て風雨にさらされ、外壁はひび割れまともな窓ガラスはほとんど残っていない。建物全体が時の重みを背負って沈黙し、かつてあった喧騒や笑い声は跡形もなく消え去っている。 「よし」 小さく気合を入れた私は、校舎の中へと入って行った。 中に入った途端、ヒンヤリとした空気に包まれゾクリとする。 窓から入った落ち葉や割れたガラスを踏みしめながら教室を目指す。濡れたカッパを脱がず、ぽたぽたと雫を垂らしながら歩く。時折、私を驚かすように鳴る軋み音に震え上がり、後ろを確認しつつ進んでいく。 階段をあがり廊下に出た時、子供達の賑やかな声が微かに聞こえてきた。 やっぱりという気持ちと、胸のそこにある恐怖を感じながらゆっくりと教室に近づき中を覗くと、そこには規則正しく並べられた机や椅子。窓際でジャンケンをする男の子。机に座り絵を描いたり本を読んだりしている女の子。カツカツと黒板に何かを書いている先生。子供達それぞれが思い思いに過ごす、学校の日常がそこにはあった。 (あの時と同じだ・・) 初めてこの教室に来た時の事を思い出す。 「どうしたの?カッパなんか着ちゃって」 「えっ!?」 突然目の前にあのどんぐり目の子がひょっこり出てきた。 「あ・・あの・・」 「次の授業ね、自習だってさ」 丸い目をくりくりと動かしながら嬉しそうに言う。 「・・・そう」 先日来た時は泣きながら「ここから出して欲しい」と言っていたのに・・・ 「あのね、自習だから本読んでたっていいし、勉強してたっていいのよ。私勉強嫌いだから本読もうと思うの。よっちゃんはいつも本読んでるでしょ?何か面白い本ある?」 (よっちゃん・・あ、私田神佳子だったっけ) 「え?本?・・う〜ん・・図書室に行けば色々あると思うけど・・」 「図書室かぁ。行くの面倒だな。じゃいいや」 そう言うと、どんぐり目の子はくるりと踵を返し行ってしまった。 (やっぱり最初の時と同じだ。なら、色々話が聞けるかもしれない) 時が止まった廃校の中に、まだ生き続ける不思議な空間。学校が見せている幻影なのか。それともこの子供達の記憶をみているのか。 どちらにしても、怒鳴られないのは良かった。 私は、濡れたカッパを脱ぎ恐る恐る教室の中に足を踏み入れた。
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