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老人とは思えない速さで、祖母は私を裏庭まで連れてきた。
裏庭に着くなり尻もちをつくようにして座った祖母は、全身で呼吸をし話しかけるのもはばかれるようだ。
佐藤さんは心配そうにくぅーんと鼻を鳴らし祖母の側に座り、ビッグとコッコとピヨは我関せずと土をついばんでいる。
アメは、体についたひっつき虫を取るのに忙しそうだ。
「・・あの・・お婆ちゃん?」
祖母は顔を上げることなく、まだ苦しそうにしている。額には玉のような汗が浮かび浅い呼吸を繰り返している。
そんな祖母の様子を見ていた私は、不安に押しつぶされそうだった。
何故祖母は、私があの廃神社にいる事が分かったのか。
何故行っては駄目なのか。
一体あの神社は何なのか。
何故、平太は私をあの神社に連れて行ったのか。
その瞬間、冷たい風が吹き抜け周囲の木々を揺らした。まるで、誰かがこちらを見ているような感覚に陥り、背筋がゾッとする。
必死に体を綺麗にしていたアメがピタリと動きを止め、水色の大きな目を廃神社の方に向ける。
その時、祖母が何か話していることに気がついた。
「何?お婆ちゃん」
私は祖母に近寄り顔を近づける。
「開けては・・いけねぇんだよ・・あの箱は・・」
「え?箱?あの神社の中にあった箱の事?」
祖母は力なく頷く。
「私開けてないよ」
「へ?」
祖母は顔を上げ、キョトンとした顔で私を見つめる。
「開けようとした時、アメが凄い速さで目の前に来たの。私驚いちゃって開けられなかった」
「ほ・・・本当か?」
「うん。本当。ね?アメ」
アメはまだ廃神社の方を見ている。
佐藤さんは軒下に溜まった水を飲み、三羽の鶏達は思い思いに歩いたり羽をばたつかせている。
「はぁ〜そうかい。開けてないのかい。ならいいんだ・・そうか。そもそも開け方を知らねえが」
祖母は、体が一回り小さくなるほどのため息を吐くとヨロヨロと立ち上がり
「これだけは約束しておくれ。もう二度とあの神社には行かねが。いーね。さてと、夕飯の支度でとすっか。美和ちゃんももうウチに入りな」
「・・うん。アメ、おうちに入ろう」
勝手口から入る祖母の後を追うように、私とアメは家の中へと入った。
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