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突然の出来事だった。
中学三年生、卒業式も終わり、高校へ入学する準備を進めていた春休み。
俺の元にひとつの連絡が来た。
「あなたのご両親を乗せたバスが、崖から転落して海に――」
「・・・・・・・・・・・・」
両親が亡くなったことを告げる電話だった。
俺の家では毎年、成人した親戚が集まって日帰りの旅行に行くのが慣習だった。
そのバスが転落したということは、両親を含む親族全員が亡くなったことを意味していた。
悲しむ暇もないくらい、慌ただしい日々が始まった。
海に落ちたバスは見つかったが、肝心の遺体が一向に見つからない。
未成年である俺には後見人が必要だったが、親族が全員亡くなった今、頼れる人は居なかった。
死亡認定の願出や諸々の手続きは俺がしなければならなかったし、葬儀も行わないといけない。
唯一生き残った親族として、俺だけでも弔ってあげないといけないと思った。
家族が亡くなって五日目。
ある程度整理がついてきて、形式だけの葬儀を執り行うことにした。
「どうせなら、俺も連れて行ってくれたら良かったのに・・・・・・・」
葬式に参加してくれる人はいっぱい居たが、ほとんどが会社の関係者だ。
俺の両親が経営していた会社の役員や、傘下のグループの幹部、そして卯川家の側近たち。
「私はあなたのご両親に仕えていた神堂晃と申します。魁星様とは幼い頃にお会いしたことがありますが、覚えておられないでしょう」
ご冥福をお祈りします。
そう言って差し出された名刺を見る。
彼は俺の両親が経営する会社の役員兼側近だ。
もしもの時は、彼を訪ねるようにと、お母さんによく言われていた。
「ありがとうございます。母から晃さんについては伺っております」
「そうですか・・・早速で申し訳ありませんが、私はあなたにお願いがあって参りました」
「なんでもおっしゃってください。俺に出来ることなら協力します」
卯川家は大財閥の名門一族だ。
会社の経営方針は、すべて卯川家の人間の意思によって決まる。
まだ未成年だが、後継者教育は受けている。
祖父が担っていた総帥の座を引き継げと言われれば、俺はすぐに行動するつもりだ。
「魁星様はご存知ではないと思いますが、あなたのはとこに当たるお坊ちゃまがいらしています」
「おじい様の弟の孫ということですか・・・・・・?」
「はい。あちらにいらっしゃる雪人様です」
手を指された方を見る。
まだ小学生にも満たないほどの、小さな子供が一人で泣いていた。
いきなりはとこと言われても、面識がないので実感が湧かない。
しばらく見つめていると、確かにおじい様の面影があるような気がした。
あんなに小さな子供を放置する気にはなれず、駆け寄って抱きしめてあげる。
「だ、だれ・・・ですか・・・・・・?」
「えーと・・・俺は・・・・・・」
なんて説明したら良いんだ?
君の祖父の兄弟の子供のその子供だと伝えても、小さな子に理解出来るはずがない。
それに、これからこの子はどうなるのだろうか。
普通だったら親戚が引き取ることになるのだろうが、この子には俺しかいない。
はとこは六親等で、ギリギリ法的に傍系親族として認められている。
頭の中でぐるぐる考えているうちに、色々とこんがらがってきた。
ここ数日の疲労もあってか、俺はおかしなことを口走っていた。
「お、俺は――そう、君の新しいパパだよ。血の繋がった家族だから・・・ね?」
「パパ・・・・・・?」
「そ、そう・・・パパだよ・・・・・・・」
「ぼくにはパパがいるよ? でも、ぼくのことおいて、ママとしんじゃったって・・・・・・」
誰だそんなこと吹き込んだやつ。
遠いお空に行っちゃったとか、長い眠りについたとかもっと言い方があるだろうに・・・・・・。
はあ、ため息をついて、雪人の頭を撫でる。
「そうだね・・・・・・・君と同じで、俺のパパとママも死んじゃったんだ」
「もうあえないの・・・?」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・・」
「やだ・・・っ・・・・・・! パパとママにあいたいよぉ・・・っ・・・!」
余計なことを言ったかもしれない。
わんわんと大声で泣く姿に、心が傷んだ。
今にも泣き出しそうに表情を歪めた晃さんが、胸ポケットから取り出した紙を渡してくる。
「魁星様、私は会社に戻らなければなりません・・・・・・。こちらは養子縁組の書類です」
「えっ、俺と晃さんがですか・・・・・・?」
「いえ、この書類は、魁星様と雪人様のためにご用意したものです」
はい? 思わず首を傾げる。
間違えて口走った言葉なのに、本当に俺が父親になるってことか?
「・・・・・・俺、未成年で独身ですけど・・・・・・」
「大丈夫です。書類は必ず受理されるので」
「後見人がいない未成年ですけど・・・・・・」
「大丈夫です。魁星様は卯川財閥の唯一の後継者であらせられますので」
「少し向こうでお話しましょう・・・・・・」
晃さんを連れて、隅の方へ移動する。
どういうことか事情を聞けば、
俺を除いた唯一の親族である雪人を保護すべきだと、側近たちの間で話が纏まったらしい。
もしもこのまま放置すれば、施設に送られるか側近のうちの誰かが引き取ることになる。
そうなれば、要らぬ争いを生みかねないと結論づけ、俺が引き取るべきだと判断されたようだ。
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