65人が本棚に入れています
本棚に追加
3
特待生として入学した俺には、様々な特権がある。
本来寮は二人一組で3LDKの部屋を使うことになっているが、特待生は一人だ。
内装は事前に配られた資料に書いてある。
玄関、洗面所、浴室、トイレ、収納×3、洋室約八畳+バルコニー、洋室約八畳+バルコニー、和室6.5畳、ダイニング、キッチン、リビング。
そして和室には押し入れもあるらしい。
雪人が居なかったら、寂しい生活を送ることになっていたかもしれない。
「雪人、起きられる・・・?」
「・・・・・・・ぅ・・・・・ん・・・・・・」
「ダメそうだね・・・・・・」
目的地に着いたは良いものの、雪人が寝てしまった。寮を見上げて、大きなため息をつく。
目の前にある寮は、タワーマンションだった。
資料には15階層と書かれているが、一般的なマンションと比べて大きさが桁違いだ。
このマンションよりも、学校の校舎の方が大きいのだから先が思いやられる。
自動ドアを通って、受付で鍵を受け取る。
ちなみに受付の方は人型のロボットだったらしく、女性の姿をしていた。
男子校なのに、どうして女性が居るんだろうと疑問に思ったが、ロボットなら納得だ。
AIが搭載されているようで、普通に世間話やら会話をしてしまった。
「本当にここが寮なのか・・・?」
エントランスを見渡して、思わず目を見開いた。
ドリンクや食事が入った自動販売機が設置されており、ソファーや机なども完備されている。
空調設備が整っているのか、暑くも寒くもない心地よい空間が広がっていた。
「見ない顔だな。外部生か?」
「この顔、まさか卯川財閥の魁星様か!?」
「子供が居る・・・弟・・・・・・?」
ソファーで休息を取っていると、三人グループの人達が近づいてきた。
雪人を起こさないよう、声を潜めて挨拶する。
「今年からこの学園に入学することになった、卯川魁星です。よろしくお願いします」
「あ、ああ・・・よろしくな・・・・・・・。俺達は今年で三学年になる。まあ、気軽に絡んでくれ」
俺に合わせて、声を潜めてくださった。
可愛いと、先輩方が雪人を囲う。
「卯川家は一人息子だと聞いていたが、弟が居たんだな・・・・・・」
「この子は俺の息子です」
「「息子・・・!?」」
先輩方が目を見開く。
ちょっと言い方が悪かったかもしれない。
慌てて訂正を入れる。
「――ということがあったんです」
「う、うぅ・・・お前、イイ奴だなぁ・・・っ・・・・・・・」
「苦労したんだね・・・困ったことがあったら、俺たちを頼って良いからね?」
「魁星様・・・オレァあんたの味方だからなっ!」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
大柄な男三人に泣かれると、ちょっと怖い。
最初は不良に絡まれたかと思ってビックリしたけど、優しい先輩達で良かった。
「先輩、よろしければ連絡先交換しませんか? まだこの学園に来たばかりで、友達もいなくて・・・」
「ああっ、良いとも良いとも。連絡先でも個人情報でもなんでもくれてやらァ!」
「俺もオールオッケー、むしろ嬉しい」
「ちょ、俺を仲間外れにすんな。可愛い後輩が出来たからって、ズリぃぞ!」
先輩方と番号を交換して、その場で別れる。
学園に来て早々、三人も友達が出来た。
エレベーターに乗って、13階のボタンを押す。
13階より上は専用の鍵を差し込んで、ボタンを押さなければ行けないらしい。
学校の役員や、なにかのランキング?に元ずいて部屋を割り当てられるのだと先輩達が話していた。
あと、この学園では男同士の恋愛が当たり前で、性暴力が横行しているとか・・・・・・。
晃さんが日本刀を預けた理由がよく分かった。
ちなみに我が家では『触れぬは罪、祟りあり』という言葉が家訓になっている。
触らぬ神に祟りなしという言葉があるが、不条理は常に理不尽に降り掛かってくるものだ。
だからこそ、危険を避けて見て見ぬふりをするのではなく、先に芽を摘んでおくべきなのだとおじい様が言っていた。
もしも襲われるようなことがあれば、刀を抜くことも辞さないつもりだ。
エレベーターを降りて、自分の部屋の番号AC-101号室を探す。
俺の部屋は、エレベーターのすぐ近くにあった。
「今日からここで暮らすのか・・・・・・」
玄関にはケースが置いてあった。
棚やベッドなどは最初から設置してあると聞いていたので、荷物は最小限に抑えた。
洋室のひとつを雪人の部屋にするつもりだったが、ここ二日一緒に過ごして分かったことがある。
雪人は、一人で寝ると夜泣きするのだ。
俺が使う予定の部屋のベッドに雪人を寝かせて、明日の準備を進める。
小学校と高校の入学式がたまたま同じだったので、俺は雪人の入学式を優先することにした。
入学式で保護者は何をすれば良いんだ?
スマホで調べて、スーツとネクタイを用意する。
帰ってきたらすぐに着替えないといけないから、制服も玄関に置いておこう。
明日の準備をしている間に、夜になっていた。
目を覚ました雪人がお腹を空いたと言うので、エントランスの自販機で食べ物を買う。
確か寮にはコンビニがあると書いてあったから、明日は食材を買って料理をしないとな。
毎日ファストフードはさすがに良くない。
最初のコメントを投稿しよう!