65人が本棚に入れています
本棚に追加
4
ピピピピ、規則正しい音が響いて、勢い良くベッドから飛び起きた。
今日は入学式だ。遅れるわけにはいかない。
「起きて。今日は入学式だよ」
「・・・・・・・やっ・・・・・・・・・まだ、・・・ねる・・・・・・・」
「雪人っ・・・!」
ああ・・・こうなると思った・・・・・・。
昨日は夜まで寝てたし、絶対に起きれないだろうと予想はしていた。
全身の力を抜いて、一切動く気がない雪人を抱き上げて、そのまま歯磨きと着替えをさせる。
「両手あげて、バンザイ!」
「ぅ〜ん・・・ばんざい・・・・・・・」
「次ズボン! 右足あげて! 次左!」
着せ替え人形の要領でどうにか準備を終えた。
そして次は俺の番だ。
まずはスーツを着て、ネクタイもか、歯磨きを済ませて――髪もセットしないと・・・。
朝食は、この際いいか。
筆記用具と、ハンカチとティッシュを持たせて、あと上履きと体育館シューズもか。
初日はランドセル必要なんだっけ?
手提げ袋だけじゃダメなのかな。
俺が履く用のスリッパに、就学通知書も提出する必要があるんだった。
バタバタと慌ただしく動いているうちに、時刻は八時を回っていた。
小学校はここから車で大体30分程度。
九時には通知書を提出しないといけないから、そろそろ出ないと不味いな。
ランドセルと手提げを左手で持って、右手で雪人を抱えて部屋を出る。
エントランスには人がいっぱい居て、なかなか前に進めなかった。
「すみませんっ! 急いでいるので道を開けてくだされると幸いですっ!」
「「だれ・・・!?」」
ペコペコと頭を下げて、エントランスを抜ける。
イケメン! 子持ち!? 今のだれ!?
色々言われているが、今はそれどころじゃない。
次は長い長い、門までの道のりがあった。
人生で初めて本気で走った。多分、ギネス記録を更新したと思う。
門の前に止まっている車に乗って、ぜえぜえと不規則な呼吸をする。
「か、魁星様・・・大丈夫ですか・・・・・・?」
「だ、大丈夫です・・・・・・。た、ぶん・・・・・・・」
出発してください。
晃さんに声をかけて、学校へ向かう。
おじい様の形見の日本刀だからって、持ってきたのが間違いだった。
1.5kg程度なら・・・と甘く見ていたが、子供と荷物を抱えていると余計に重く感じる。
車で揺られること約30分。
到着しました、声を掛けられ、そのままの車を飛び降りる。
「着いたよ、そろそろ自分で歩こうか・・・・・・」
「うーん、わかった・・・・・・」
眩しいのか、目を擦りながら雪人は起きた。
ポケットからスマホを取り出して、入学式の札がある入口に立ってもらう。
「雪人! にっこり笑って!」
「にーっ!」
カシャ、記念撮影を終えて、受付へ向かう。
ここで新入生は上級生に連れていかれるらしく、俺と雪人は別行動になった。
「お兄さんですか? 少し休んでいかれます?」
「い、いえ・・・まだやることがあるので・・・・・・」
受付の方に通知書を提出して、先生方が居る場所へ足を運ぶ。
晃さんが事前に事情を説明したと言っていたが、保護者として挨拶はしておかないと。
ホームページに載っていた校長先生を見つけて、ご挨拶へ向かう。
「初めまして。私は卯川雪人の後見人の卯川魁星と申します。これからお世話になります」
「ああ、君が例の・・・・・・。まだ子供なのに大変だったね。私もできる限りサポートをするから、一緒に頑張っていきましょう」
「はい・・・・・・」
こちらは、雪人くんの担任の先生になる予定の清美先生だ。そう言われ、先生を紹介される。
「あなたが魁星くんね? 先生は今年で2年目なの。至らない点があると思うけれど、これから一緒に頑張りましょうね」
「はい。雪人のことをよろしくお願い致します。なにかありましたら、こちらの番号にご連絡ください」
電話番号を渡して、会釈して体育館に入る。
どうにか取り繕ったが、酸素が足りない。
周囲の人におかしいと思われないように、ゆっくりと深呼吸をする。
新入生の入場から始まって、順調に入学式が終わろうとしていた。
「新入生と保護者の方で集合写真を撮ります。前の方へ来てください」
在校生が退場したから終わりだと思ったのに、まだ残っていたのか・・・・・・。
何枚か写真を撮って、ようやく入学式が終わった。
時計を見ると時刻は10時25分。
高校の入学式がちょうど終わるであろう時間帯だ。教室の初登校には間に合いそうだな。
帰りは晃さんが迎えに来てくれるらしいので、車に乗ってすぐに学園へ戻る。
少しスピードを出してくださったおかげで、20分程度で学園に着いた。
「ありがとうございました! 雪人のお迎えもよろしくお願いします!」
「かしこまりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
また長い道を走って、制服へ着替える。
焦りで、ワイシャツのボタンが留められない。
これ以上遅れる訳にはいかないので、そのまま学校に登校することにした。
「す、すみません! 遅れました!」
「「きゃああああぁぁぁっっっっっ!!」」
バンッ、一年生のSクラスの扉を開ける。
ザワザワ、話し声と悲鳴が上がった。
「初日から大胆だな・・・・・・。そこの色男、事情は聞いているから早く座りなさい・・・・・・」
「は、はい・・・・・・」
ホストのような見た目の教師に促され、空いている席に着く。
はあああ、ようやく休むことが出来る。
ふぅ・・・、ワイシャツをパタパタと仰ぐ。
まだ四月なのに、走り回っていたおかげで汗だくだ。扇風機が欲しい。
「ん・・・?」
周りが静かだと思い周囲を見渡せば、食い入るような目で同級生達が俺を見ていた。
どうしたんだ・・・・・・?
「頼むからボタンを留めてくれ・・・・・・。俺も話に集中出来ない」
担任の先生が、額を抑えながら呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!