第一章・一幕

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5  担任の先生――東雲先生が、もう一度俺のために学校の説明をしてくれる。 「ほとんどが内部生だから知ってると思うが、この学園は生徒会と風紀委員会を中心に回っている」  親衛隊という組織があり、人気のある生徒に話し掛けると嫉妬され制裁を受ける。  特に生徒会と風紀委員会が要注意のようだ。 「最後に、自分を守る術が無いやつは、一人にならないことだ。何をされるか分からないからな」  チラリ、東雲先生に視線を向けられる。  最近は食欲がなくて筋力も落ちたが、だからといって無抵抗にやられるほど弱くはない。    日本刀を抜いて、先生に刀身を見せる。 「剣術の心得はあるのでご安心ください。この日本刀があれば、何でも切り落とせます」 「「ナニを・・・・・・!?」」 「見かけによらず物騒なヤツだな・・・・・・、まあ、外部生ならそのくらい警戒してた方が良いだろう」  というわけで、自己紹介頼んだ。  東雲先生に振られ、刀を収めて挨拶する。 「俺は卯川魁星と申します。実は最近、親戚の子のお世話をすることになり、授業に出られないことが多いと思います。その子・・・雪人も一緒に寮で暮らす予定なので、優しくしてくださると嬉しいです」 「「・・・・・・・・・・」」  深々と頭を下げる。  なぜ雪人について触れたのかと言うと、この学園には土日休みというものが存在しないからだ。  特待生は授業免除を受けられるが、登校自体はしなければならないというルールがある。    小学校は土日が休みだ。  必然的に、寮に雪人を置いて登校するか、雪人を連れて学校に登校するかの二択になる。    理事長にそのことを相談したら、教室へ行かないなら連れてきていいよ、とのことだった。    高等部に小学生が居たら驚くだろうから、一応同級生達には伝えておくことにしたのだ。 「だそうだ。色々と苦労してるヤツだから、なるべく優しく接してやってくれ」 「「はい!!」」  元気に返事をする同級生達に、ほっと息を着く。  とりあえず、俺の事を受け入れてくれたみたいで良かった。外部生だから、少し不安だったんだ。  東雲先生が教室を出ると、自由時間が出来る。  堰を切ったように、同級生達が集まってきた。 「魁星様! お噂はかねがね伺っております!」 「ご趣味をお聞きしても良いでしょうか!?」 「好きな食べ物はなんですか!? 僕、お菓子作りが趣味で・・・今度一緒に作ってみたいです。お菓子が苦手なら、子供とかでも良いんですけど・・・・・・」 「おい、卯川様の心情を考えろよ! 暫くはそっとしてあげた方が良いだろ!?」 「そういうお前こそっ、卯川様とお近付きになろうとしてるじゃないか!」 「なんだと!? やるかっ!?」  俺を巡って争いが起き始める。  中学生の頃にも、副会長の座を巡って似たようなことが起きたんだよな・・・・・・。  つい一ヶ月前まで、俺は生徒会長をしていた。  高校では生徒会に入るつもりは無いけど、理事長から打診も来ている。  確かこの学園では、生徒の投票によって役員が決まるんだったよな?  喧嘩の仲裁をしながら、生徒会について尋ねる。 「卯川家は世界一の名門一族ですし、特待生なので成績の面でも問題ないと思います!」 「いや、俺は生徒会に入るつもりは――」 「みんな! 魁星様が生徒会選挙に興味を持たれているようだ! 魁星様に投票しようぜ!」 「少し話を――」 「よっしゃっ! 今のうちにポスターも作るぞ!」 「「オーー!!」」  否定しようにも、勝手に話が進んでいく。  俺はため息を着いて、こっそり教室を出た。 「どうしようかな・・・・・・」    生徒会役員になるのが嫌な訳ではない。  小学生の頃は学級委員長、中学校では一年生の頃から役員を務めていた俺からすれば、むしろ仕事が無い方が違和感を感じるほどである。  しかし、それは両親が生きていた頃の話だ。    今の俺には雪人が居る。  生徒会の仕事と雪人、どちらを優先するかと聞かれれば、考えるまでもなく後者だ。 「「ッ・・・!!」」  ドンッ、考えことをしていたせいで、硬いなにかにぶつかってしまった。  硬いそれが、すぐに人であることに気がつく。 「すみません。お怪我はありませんか?」 「ああ、俺は大丈夫だ」  目の前の男が、艶のある漆黒の髪をふわりと揺らし、暖かな笑みを浮かべる。  うわ・・・身長高いな・・・・・・。 「どこか痛むのか?」 「いえ、少し驚いただけです」 「・・・・・・??」  首を傾げる男から離れて、彼の身体を見る。    人にぶつかったにしては、衝撃が凄かった。  お腹に鉄板でも仕込んでいるのかと思ったが、服の上からでも分かる腹筋の影に納得する。 「それでは失礼します。こちらの不注意で申し訳ありませんでした」  会釈をして、昇降口へ向かう。  あまり人の身体を見るのは良くないよな。  昇降口で靴に履き替えて、――そこで俺は、あることに気がついた。 「あの人が腕に付けてた腕章、風紀って書いてあったような・・・・・・」  この学園で平和に過ごしたいなら、生徒会と風紀委員会には関わらない方が良い。  東雲先生から、そう釘を刺されたばかりだ。  まさかあの人、風紀委員だったのか?  顔がモデルみたいで力も強そうだった。 「少し話しただけだし、問題無いよな・・・・・・」  俺は考えるのをやめて、寮に戻った。
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