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あと一回だけ、あと一回だけ。
それを繰り返して、既に五十回は超えているのではなかろうか。目の前に広がるそれらに、私は口角が引き攣るのを感じた。
しがないOLで低収入、富んだような知識があるわけでも、スキルがあるわけでもない。仕事だってできない。上司であるお局からも嫌われている。
今日も今日とて、理不尽な理由で怒られて社会というものを痛感したのだけれど。残業終わりの疲労しきった身体を引きずって帰路について、そして―――記憶がない。今に至る。
目の端には散乱した服と使い古した下着がある、自宅であることは間違いない。まるで狐につままれたみたいだ。
お腹が苦しくて、息ができない。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いのに、手が塔のようにテーブルに積まれたそれに伸びていった。テーブルの下には用済みだと言わんばかりにそれらのゴミが散らかっている。これは自分じゃない、これに負けているのは自分じゃない。私は何回も辞めようとした。だけれど、気付けばいつの間にかこんな状況になっている。
あと一回だけ、あと一回だけ。自分の心がそう叫んでいる。胸が痛くなるたびに、押しつぶされるたびに、手が痛くなるたび、作ってしまった逃げ道に逃げ込んでしまうのだ。
涙が目の端から零れ落ちる。泣きながらするような行為じゃないのに、本当は喜びを与えるようなものなのに、どうして私だけこんなに苦しい思いをしなければいけないのだろう。
ああ、また手が伸びる―――私は食べ物に手が伸びる。身体はこれ以上の食べ物を受け付けていないのに、それでも、私が私であり続けるためにはこうする以外になくて。
あと一回だけ、あと一回だけ―――私は無我夢中で生き地獄に歯型のついた手を伸ばした。
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