プロローグ 音楽雑誌「M・M」****年十月号

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 録音スイッチを切る。  音楽専門誌「M・M」のインタビュア・石川キョーコは、BBのヴォーカルのFEWこと布由(ふゆ)に、神妙な顔になって訊ねた。 「あのバンド、ですか?」  彼女はその名前を告げる。彼はうなづく。 「そうですよ、あのバンド。よく名前覚えてましたね」  そりゃあ、と彼女は苦笑を返す。 「当時、私はうちの雑誌で、彼らを担当してましたから。それが突然ああいうことになって」 「雑誌でも、彼らのことはタブーだったんじゃないですか?」  さらりと彼由は訊ねる。周知の事実だ。 「ええずっと。実際彼らの扱いについては、今でも微妙なんです。情報は入ってきます。業界狭いですから。貴方は彼らとコンタクトを取ったんですか? 今回ツアーのラストにあの街を入れるってことは」 「んー」  彼はどうしたものかな、と横で聞いていた相棒でベーシストの土岐とマネージャーの大隅嬢に視線を移す。  大隅嬢は御勝手に、と言いたそうにうなづく。土岐も同様だった。 「コンタクト自体は取れたんだ」 「取れたんですか!」 「何とか一度ミーティングもできたし。まあ実際大変だよね。ただ俺は故郷でライヴをしたいだけなのにね」 「はあ」  何かを隠している。それは判る。  だが下手に突っ込むのも許されないような雰囲気が、この日の二人にはあった。 「ま、だから今回はプレスも入れないから石川さん、入れないで悪いとは思うんだけど」  本当に、と石川キョーコはうなづく。 「ただ忠告。もしかしたら、あの都市の凄く近くを見張っていれば、面白いものが見られるかもしれないよ」 「凄く近く?」 「そ。凄く近く」  くすくす笑いを浮かべて布由は言う。  そう言えば「あのバンド」のヴォーカリストも、いつもこんな表情を浮かべていたな。  彼女は思いだす。  何処か浮世離れした、それでいて何処か人に対しえげつないまでのエゴと矛盾の塊。  確か彼の呼び名は―――
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