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録音スイッチを切る。
音楽専門誌「M・M」のインタビュア・石川キョーコは、BBのヴォーカルのFEWこと布由に、神妙な顔になって訊ねた。
「あのバンド、ですか?」
彼女はその名前を告げる。彼はうなづく。
「そうですよ、あのバンド。よく名前覚えてましたね」
そりゃあ、と彼女は苦笑を返す。
「当時、私はうちの雑誌で、彼らを担当してましたから。それが突然ああいうことになって」
「雑誌でも、彼らのことはタブーだったんじゃないですか?」
さらりと彼由は訊ねる。周知の事実だ。
「ええずっと。実際彼らの扱いについては、今でも微妙なんです。情報は入ってきます。業界狭いですから。貴方は彼らとコンタクトを取ったんですか? 今回ツアーのラストにあの街を入れるってことは」
「んー」
彼はどうしたものかな、と横で聞いていた相棒でベーシストの土岐とマネージャーの大隅嬢に視線を移す。
大隅嬢は御勝手に、と言いたそうにうなづく。土岐も同様だった。
「コンタクト自体は取れたんだ」
「取れたんですか!」
「何とか一度ミーティングもできたし。まあ実際大変だよね。ただ俺は故郷でライヴをしたいだけなのにね」
「はあ」
何かを隠している。それは判る。
だが下手に突っ込むのも許されないような雰囲気が、この日の二人にはあった。
「ま、だから今回はプレスも入れないから石川さん、入れないで悪いとは思うんだけど」
本当に、と石川キョーコはうなづく。
「ただ忠告。もしかしたら、あの都市の凄く近くを見張っていれば、面白いものが見られるかもしれないよ」
「凄く近く?」
「そ。凄く近く」
くすくす笑いを浮かべて布由は言う。
そう言えば「あのバンド」のヴォーカリストも、いつもこんな表情を浮かべていたな。
彼女は思いだす。
何処か浮世離れした、それでいて何処か人に対しえげつないまでのエゴと矛盾の塊。
確か彼の呼び名は―――
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