露わになった気持ち

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露わになった気持ち

関係性はプラトニックなものだったけど、これだけ密な時間を過ごしているのだ。てっきり真治は、鳴海にとっても俺は「あり」な存在なんだと思っていた。  それがまるっきり見当違いだったということが、昨日になって露見した。  昨日の月曜、いつものように食事を終えて、鳴海のアパートまで運転して送るところだった。急に大粒の雨がフロントガラスを叩いたかと思うと、とんでもない量の雨が降り出した。ゲリラ豪雨ってやつだ。 「はは。これじゃまったく前が見えないね。危ないから、一旦路肩に停めよう。だいじょうぶ、すぐに止むよ。」  車を止めて助手席を見ると、鳴海の顔が不安げにみえて、それがなんだか愛おしく感じた。真治はシートベルトを外し、身体を起こして、鳴海のほうを向いた。その瞬間に、鳴海の瞳が恐怖に震えるのを見た。  鳴海は止めるのも聞かずに、手を振り払うようにして、ベルトを外し、車外へ出た。そして窓ガラスを開けるようにと、激しく叩く。鳴海の髪に、顔に、身体に、容赦なく雨が吹き付けるのを見ながら、真治は胸打つ自分の鼓動が、いやに冷たい、と思っていた。  窓ガラスを渋々全開にすると、鳴海は叫んだ。雨が車を叩く音に、負けじと叫んだ。 「ごめんなさい! そんなつもり、全然なくて! 渋谷さん、大人だし、優しいし、ちょっと甘えてたかも! 一緒にいると楽しいし、でも恋愛対象では全然ないっていうか、なさすぎて考えてもみなかった、っていうか! 渋谷さんぐらいの年齢の男の人は、若い女の子と食事に行くだけで楽しいんだろうな、って、勝手におごり高ぶってたっていうか!」  激しい雨が、鳴海のブラウスを濡らし、下着のラインを露わにしていく。 「……わかった。悪かった。とりあえず乗りなよ。風邪ひいちゃうよ。」  真治は優しい口調で言いながらも、凍りつくような胸の痛みをおぼえていた。  鳴海は車に乗らなかった。ドアを一瞬開けて自分のバッグをひったくって、真治に深く頭を下げ、走って雨のなか、アパートの方角に消えていった。
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