やるせない思いと夏のアスファルト

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やるせない思いと夏のアスファルト

 平日の一番陽の高い時間に、駐車場に車を止めると、渋谷真治はため息をついた。ホームセンターのだだっぴろい駐車場には、停まっている車はほとんどなく、熱せられたアスファルトはぎらきらと夏の日差しを跳ね返し、湯気でも出ているかのようだ。  真治は営業部に所属しているから、火曜日のきょうは休みの日。トイレットペーパーやら、詰め替え用の洗剤を買いたいけれど、売り場は向かって右のほう。反対の左端にあるペットショップにも寄りたいので、真ん中に停めたのだ。  早朝のジョギングを長年の日課にしていて、体力には自信のある真治でも、車外に出るのをためらうような暑さだ。それでもきょうは、どうしてもここに来たかった。真夏の日差しと同じくらい、じりじりぎらぎらと、焦げるような思いを抱いていたから。 怒り? 失望? 悲しみ? 虚しさ? この感情に名前を付けるのはなかなか厄介だ、と真治は思いながら車外へ出た。  真治は昨日、女に振られた。 「付き合ってください。」とか、「好きです。」なんて言って始まった関係ではない。そんなセリフ、子供染みてて野暮ったいと思っていた。いつのまにかすっと寄り添っているような、視線の交わし方が次第に密になってくるような。 五十代も半ばを過ぎた真治からしてみれば、それが理想的な恋の始まり。すっと自然に手を繋いでいるような、気づけばキスを交わしているような。  ところが、完全にその路線に乗ってきていると思った女性に、まったくその気がなかったことが昨日になってはっきりわかって、やりきれない気持ちでいっぱいなのだ。
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