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明人の過去Ⅰ
「実は僕にはさ、弟がいるんだ」
いきなりそこから来るのか。適当にへぇ、と相槌を打つ。
「一つ下でさ。めっちゃ可愛いの」
「そうか」
「あ、それと僕は両親が大嫌いなんだ」
え?どうして?なんでだ?優しい両親…のはずだが。
「僕さ、イギリスから来たじゃん?」
「あー、そうだったね」
「本当はさ、僕は、僕達はイギリスに行くはずじゃなかったんだ」
「…それは、どうしてって聞いても?」
「うん…僕らが小さい頃、ちょうど小学生になろうかって時にね、父さんの転勤が決まってさ」
「それがイギリスだったわけだ」
「そう。それで、母さんは父さんについていくことになって。僕らは親戚の家に預けられたんだ」
「へー、単身赴任じゃなかったんだな」
「父さん、あの頃は生活力皆無だったから。仕事はできる人だったみたいだけど。それで母さんは自分がついていかなきゃって思ったんじゃないかな」
「それで」
「それでさ。最初の方は本当にいい人たちだったんだよ。ただの親戚の子供に優しくしてくれてさ」
俺の心も重くなってきた…だめだ、思い出すな、ここでもし万が一ばれたらこれまでの俺の苦労はどうなる。知らないことだ。知らない家族の話だ。
そうだ。そう、思い込めーーー。
俺は、楪悠矢だ。
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