打ち上げ

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「カンパーイ!!」 グラスのかちあう音が響いて、文化祭の終わりを実感する。自分がこんな風にクラスメートと打ち上げに行くなんて、夢にも思わなかったな。 文化祭の打ち上げで、クラス全員で焼肉屋へ来ている。あの後落ち着いた明人は、もういつもの明人だった。 「改めて、優秀賞おめでとう!イエーイ!じゃ、作者の坂本さんと、主演2人からコメントを…どうぞっ」 委員長、テンション高いなー。今まであんまよく見てなかったけど、このクラス意外と面白い。委員長は真面目なんだけどノリが良いときは誰よりも早く行動するし。 「えと、この作品を世に出せてすごく嬉しい…な。最優秀賞には届かなかったけど、みんなのおかげで作品が生きたと思う。ほんとにありがとう」 「はーい、じゃあ次は」 「お、僕かな??」 明人が笑っている。いつもの明人だ。でも、あんな昏い欲求を聞いた後だと少し見え方が変わってくる。 『悠真を失うくらいなら、イギリスで一緒に死にたかった…』 なんて、言わせたくなかったのに。 俺は、大バカ野郎だ。 「まー、途中トラブルもあったけど、準備期間含め、すんごい楽しかったわ。僕をウル役に選んでくれてありがとう!それと、悠矢と仲良くなれたのが僕は嬉しい」 「おー?じゃあ、その悠矢君はどう答えるー?」 「委員長、落ち着いて。楪が緊張するだろ。それと鈴木が怒ってるぞ」 「へ?なんで?」 「楪のこと、悠矢って呼んでいいのは自分だけだって言ってたの、忘れた?ほら見なよ、あの顔」 チラ、と明人の方を見ると確かに。怒ってるねえ。 思わずクス、と笑ってしまった。 わあっと、歓声があがった。 何かあったか?…なぜみんな俺を見ている? 「楪が、笑った!」 「演技以外で見るのはじめてじゃん!?」 「かっわいい!」 「破壊力エグ…」 おいおい、俺でも笑うことぐらい…そうか。今までなかったか。 「え、えーっと、演劇とか初めてで緊張しました。それに、みんなと話したことなかったし、上手くできるかわからなかったけど、楽しかった…と思います」 「なーなー、楪」 「ん?何でしょう、千歳君」 「あのさー、そろそろ敬語やめねぇ?この文化祭期間で仲良くなれたと思ったんだけど」 それは…俺はみんなと仲良くなりたいわけではないしな…普通に話せたらそれでいいんだけど。 「俺さ、楪が俺の代役になってくれて嬉しかったんだぜ。ま、結果的には俺より適役だったと思うし。とにかくさ、何が言いたいかって言うと、クラスメートなんだし、タメでよくねぇ?つか、俺が楪のタメ聞いてみてぇ」 明人に助けて、と視線を送ると、にこっと笑われた。 なんなんだその、生暖かい目は!? 「そうだね、そろそろ悠矢もタメにしてあげたら。」 「明人までそんな事言うのか…善処する」 またも歓声があがった。 まったく。 その後は監督の安永がコメントしだしたのだが、途中でサラダやら肉やらが到着し、うやむやになってしまった。 焼肉、というといつもは 「若、他の組のやつが話をつけたいと」 と、こんな感じで他の組の幹部と無言で焼き肉を囲んだり、 「若ぁ、もっと食べて、飲んでくださいよー」 「そうっすよ、ほら、ほら」 「悠矢ー、食え食え、育ち盛りなんやから」 なんて親父達と食ったり。 同年代と焼き肉…悪くないな。 「悠矢、肉!肉焼けてる!」 はっと我に帰ると、肉がただの炭になっていた。 「焼き肉って、難しいな」 「悠矢はこういうとこ初めて?」 「おん。親父と焼肉行ったりするけど、部下が焼くからなぁ」 「なるほどなぁ。じゃあ、悠矢のハジメテだ♡」  「馬鹿、キモいこと言うな」 なんて会話をしていると、 「あー、また二人の世界に入ってる! 「鈴木ばっか楪を占領しててずるーい!」 「楪くんも、鈴木がうざかったら言ってね?いつでも引き剥がすよ?」 「あ、はは。大丈夫大丈夫。俺こそ、明人を占領しててごめんな?」 「ううん、ぜんぜーん」  「楪くんは、何も悪くないよ?」 「おい、僕と悠矢とで対応違いすぎないか…?」 「「あははー!」」 すごく賑やかだ。 焼肉って、こんなに美味かったんだな。
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