アナザー赤ずきん

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アナザー赤ずきん

友達におはよーと言いながら自分の席へと向かう。自分の席は窓側の後ろから2番目。いつも後ろの席の子は寝ている。あんまり顔見たことないな。 ここ橘華(きっか)学園へきて早2週間。 僕はちょっと前まで父親の仕事の都合でイギリスで暮らしてたんだけど、一区切りついて日本に戻れることになり、一応地元のこの地へと戻ってきた。 地元、とはいえ小学校に入る直前であっちに行ってしまったから日本の学校は初めてで、それなりに楽しんでいる、と思う。 「ということで、もうすぐ文化祭があります!意見がある人は挙手を」 委員長の野本さんが頑張っている。文化祭か。日本は秋にやるんだな。 結果として、演劇をすることになった。僕としてはメイド喫茶でも、劇でも、フランクフルト屋でもなんでもよかったんだけど…。 「かっこいい衣装を鈴木君や蓮山(はすやま)君に着てもらいたくないですか⁉それだけで集客間違いなしですっ。脚本は私が書くので…どうかお願いします。」 とまあこんな感じのことを文芸部の坂本さんが言い出したのだ。坂本さんは幾つか賞も取っている実力者で、将来は作家と噂されている、らしい。 ん?つまり僕ってキャスト確定なのか…?自分の容姿が整っている部類だというのは感じていたが本人の意思確認もなしに勝手に進めないでくれよ…とは言い出しにくく…。 「主人公は男子2人で、最終的に2人は…って考えています!!」 全く理解できなかったのだが、この一言で大多数の女子が演劇賛成派に転じたのだ。 「それで坂本さん、脚本はもうあるの?」 「もっちろん。赤ずきんちゃんをいじろうかなって思ってて、実はもうすぐ文化祭だから脚本はもう出来上がってるんだ…狼役を鈴木君、赤ずきんを蓮山君にって思ってて…クラス〇INEに台本のプロットを送るから見てもらってもいい?」 ブブっとスマホが震え、クラス〇INEに『アナザー赤ずきん』というタイトルの文書が届いた。 話としては、もはや赤ずきんじゃないだろと言いたくなったが、確かに面白いなと思った。 「ど、どうかな?」 おどおどしながら坂本さんが聞くと、みんな口々に 「これ面白い!」 「やろうやろう!」 「これ最優秀賞狙えんじゃね?」 「狼鈴木君とか神…」 「ねえ、どっちがどっちなの?」 等々、大絶賛。僕もこういうものに抵抗はないものの、蓮山君がどう思っているんだろう…と少し曇った顔をしていた。 「では演劇に決まりで脚本はこのアナザー赤ずきんでいきましょう。キャストは次のLHRで決めましょう」 その日はこれで終わった。
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