休日

1/3
前へ
/37ページ
次へ

休日

「やることないんやったら、ちょーっと昼飯作ってくれん?」 という親父の一言で俺と明人で昼食を作ることになった。まだ親父の意図が読めない。明人と仲良くなんてするなと、関わるなと釘を刺したいのだろうか。親父は基本的に優しいが、腹の中で何を企んでいるかわかったもんじゃない。長年この世界にいるので俺もそこそこわかるようになったのだが…親父だけはいまだに全くつかめない。 「さー、何作ろう?お父さんの苦手な食べ物ってある?」 「ピーマンだな」 「ピ、ピーマン??」 「ガキの頃からどうしてもダメなんだとさ。ピーマン入ってなきゃなんでも食う」 なんで明人と料理なんかするはめになっているんだ…と若干思いつつ、冷蔵庫を開ける。 「すっげえ、なんでもあるんだな」 「そうだな。どんな好みにも対応できるように、だな。組員たくさんいるからさ」 「お昼にはみなさん帰ってくるの?」 「うーん、帰ってくる奴が大半だけど、中には家庭を持ってるやつもいるし、外で食べてくる奴もいるし、仕事が終わらないやつもいるし…人によるな」 「そうなんだ」 「とりあえず30人分くらい作っときゃあ問題ねえ」 「たくさんいるんだね。全員で何人?」 「そうだな…ここに住んでるのは幹部だけだし、それだけでざっと50人くらい?組員ってくくりにすると1000人くらいになるな」 「すごいね⁉って、え、悠矢って幹部なの?」 あー、余計なこと言っちゃったな。 すると、バタバタと足音が聞こえた。料理番かな。 ドアがガラッと勢いよく開いて、予想外の顔がのぞいた。 「若!」 「おお、矢口。どうした?」 「店の方で問題です。すいませんが、出てもらえませんか?って、鈴木明人⁉なんでここに…」 矢口は俺の直属の部下だ。 「え?俺今日オフなんだけど」 「すいません。でもお願いします」 表情からして、かなりまずい状況になっていることは予想できた。 「あー、わかったわかった。着替えてくるから車用意しとけ」 「はい」 明人の方に顔を向ける。 「つーことで、申し訳ないけど俺は仕事だ。料理番がもうすぐ来るはずだから、よろしく」 「え、と、若って…?」 「悠矢はねえ、この楪組の若頭なんだよぉ」 「お父さん⁉」 いつのまにか親父が来ていた。 「いやあ、大変なことになっちゃったみたいやなぁ。休日に堪忍な、悠矢」 「いいよ、最近休みにしてもらってたし。矢口が来るってことは相当だろうしな」 「久しぶりに料理しようかなぁ、明人君とも話したいからちょうどええわぁ」 「はぁ、変なこと吹き込むなよ」 「変なことなんてせんよ。ほらはよ行き。矢口が泣くで」 「はいはい」 多少の、いやかなり不安を残しつつ調理室を後にした。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加