神宮路君と蓮山くん

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な…な…なんだこれ…。 「おーい、明人ー?戻ってこーい」 「ダメだこれ。明人、放心状態だ」 「楪―何とかしてくれよ、彼氏だろ」 「違う。俺たちは付き合ってなんかいない。これは酔った勢いでされただけだ。つまりおふざけだ。そうだろ、明人」 昼休みになるなり、千歳君が焼き肉屋での一部始終を見せてくれた。蓮山君と神宮路君の2人の様子でかなり衝撃だったんだけど…まさか僕が悠矢にキスしてしまっていただなんて…。 でもそれ以上に、悠矢のキスの相手が自分でよかったと安心してしまい、その自分に驚いた。 なぜ、安心したんだ‥‥? 「おい明人。このままだと誤解されたままだぞ。俺のこと、恋愛的な意味では好きじゃないよな?少なくとも、俺はそうじゃない」 少しズキっとした。ズキ…? なんで胸が痛むんだろう…。 「あ、ああ。そういうんじゃないよ…誤解だよ」 「なんだよ、うちのクラスのビックカップル誕生かと思ったのに」 「えー、つまんねぇ。じゃあ付き合おうぜ。俺らだけばらされて不公平だ!」 「玲、それは違うよ。玲が自分でばらしたんだよ」 「明日夏、ひどーい」 のほほんとしている2人に、委員長がおそるおそる声をかけた。 「あの、お2人はいつからお付き合いを…?」 心なしか、委員長の顔が上気している。 「中1」 と、ぶっきらぼうに蓮山君が答えた。 「俺が先に好きになったんだ」 と、神宮路くん。蓮山君を見つめる目から、愛おしさが溢れていた。 「それで、俺が猛アタックしてつきあってもらったんだけど、すぐに周りにばれちゃってさ。冷やかされてばかりで嫌だったんだ」 「そうだったんだ…」 蓮山君は神宮路君の膝の上で丸くなって眠っている。 「それで高校は遠いところを選んで、付き合っていることも隠すことにしてたんだけど、クラスも別れちゃって2人で過ごせる時間が減っちゃったんだ」 「お互いに寂しくてさ。奇跡的に寮が同部屋になれたのに結局時間ずれちゃって、ここ最近は文化祭の準備でますます顔も合わせなくなって。限界が来ちゃったんだね」 蓮山君はなでられるままになっている。2人にとってこれが日常なんだなと感じさせられた。 いいな、と思った。僕も悠矢のあのサラサラな髪に触れ・・・・・・・・いやいや、何考えてるんだ。 「で、これからはもう我慢しないって決めたんだ。一緒にいたい時は一緒にいる。ただ、みんなに迷惑とかはかけないって約束するから冷やかしたり、変に馬鹿にしたりとかしないでほしいんだ」 「それぐらいのことでしたら…ね、みんな馬鹿にしたりしないって約束できるよね?」 おう、もちろん、うん、と返事をする人、頷く人。2人を否定する人はいなかった。 「野本さん、ありがとう」 「いえ。そんな、人のことを否定するような人はそもそもこの学園に入学できませんよ」 「はは、そうかもね。玲、話し終わったよ」 「ん、どうだった?」 眠そうな顔のまま蓮山君が尋ねる。 「みんな大丈夫だって」 くしゃっと蓮山君が笑顔を弾けさせる。 「じゃ、お前明日から昼休みぜってぇ来いよ」 「はいはい。じゃ、授業始まるから俺行くね」 神宮路君も、眩しいくらいの笑顔で帰っていった。 「みんな、ありがとう」 蓮山君が深く頭をさげた。 「そ、そんなことしなくていいよ」 「そうだぜ、ってかあんなに愛されて羨ましいなチクショウ!」 蓮山君はいいだろ、と先刻の神宮路君と同じ表情をした。 すごく、キラキラして見えた。
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