アナザー赤ずきん

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早速稽古が始まり、LHRや放課後はほとんど稽古に当てるようになった。 アナザー赤ずきんの内容は面白い。舞台となるのは動物と人間の共存世界。お母さんが赤ずきんをひとりでおばあちゃんの家までいかせるのは原作通りなんだけど、オオカミと出会うシーンから変わっている。 オオカミの名前はウルというんだけど、なんとそのウルと赤ずきんは仲良しなのだ。 そして仲良く祖母宅に到着する2人。 おばあちゃんは病気、とのことでお母さんからの葡萄酒をふるまおうとする赤ずきんなのだが、その葡萄酒にはなんと毒が盛られていた。 実はこの国、親アニマル派と呼ばれる動物との共存を推進する穏健派閥と、反アニマル派という動物たちを人間の害悪とみなし抹殺を目的とする過激派とが水面下で争っている状態だったのだ。そしておばあちゃんは親アニマル派、お母さんは反アニマル派の人間だった、ということが明かされる。 「いやー、よくこんな話思いつくよなあ」 「学祭にしては重いストーリーなのではとか思ったけど、メイン2人が後半甘々ラブラブシーンを演じてくれるからいい感じになるんだよなあ」 っと、話の続きを。 大好きなおばあちゃんを殺された赤ずきんはウルとともにお母さんに復讐を誓う。この脚本のメインはその復讐劇、そしてウルと赤ずきんの恋模様…なのだ。日本でこのジャンルが人気という噂は聞いたことがあったがここまでとは思わず驚いた。 復讐の準備を進めていくうちに、距離が縮みウルと赤ずきんは恋に落ちーという話である。 今日はまだまだ序盤。オオカミとであうシーンだ。 「こんにちは。可愛い可愛い、赤ずきん」 「やあウル。久しぶり」 パンっと舞台監督兼ナレーターの安永 信(やすなが しん)が手をたたく。 「ウルはもっと嬉しそうにして。この時点で淡い恋心を彼は持っているんだ。その一方で赤ずきんは彼を友人としてしか見ていない。もう少しセリフに感情をこめて」 さすが演劇部部長さん。ダメだし的確だ。 「じゃ、10分休憩で」 ちら、と小道具班に目を向ける。はぁ…遠いなあ。 実は、相変わらず楪君とは話せずにいるんだ。なんとか話したいのだけれど、キャストとスタッフの距離が遠い…舞台監督や音響、照明ならいざ知らず、まったくもって小道具部の人達と絡みがない!ほとんど窓口係の子としか話さないのはなぜ⁉もう少しみんなの距離を詰めよう⁉と、声を大にして言いたい。 「じゃあ、今日はここまでにしよっか」 そうだ! 「ねえ、みんな。僕さ、文化祭のことも大事だけどみんなともっと仲良くなりたいからさ、これからみんなでご飯行かない?親睦会みたいな感じで」 「いいねそれ!」 「そういや、そういうことやってなかったね」 「よしっ。じゃあ、カラオケ行こうぜぇ」 そんなこんなでカラオケに行くことになった。 これは楪君と話すチャンス!
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