決定事項

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決定事項

 私は一人、山奥の村限界集落で立ち尽くしていた。目の前に広がる静かな湖、その向こうには深い緑の森が広がっている。この風景が、もうすぐ消え去ると思うと、胸が締め付けられるような思いがした。  村の会議室で、役場の人々がダム建設の決定を告げた日、私はすぐに立ち上がって反対した。「この村には、こんなに美しい自然があるんです。それを壊してまでダムを建てる必要がどこにあるんですか?」私の声は震えていたが、決意は固かった。しかし、大人たちは私の言葉を聞いても無表情だった。彼らにとって、私の意見はただの子供の戯言に過ぎなかったのだろう。  それでも、私はあきらめなかった。翌日から、毎日ダム建設予定地に通い、抗議の看板を掲げた。「自然を守れ」「ダム反対」そんな言葉を書いた紙を、木に結びつけた。村の人々は私の行動を見て、ため息をつきながら首を振ったり、時には笑ったりもした。でも、私は一人でも続けると決めていた。  ある日、私が湖のほとりで抗議をしていると、一人の老人が話しかけてきた。「お前さんの気持ちはわかるが、どうしようもないんだよ。この村はもう限界なんだ。若い人はみんな都会に出て行って、ここには老人しか残っていない。ダムができれば、少しは村の活気が戻るかもしれないんだ。」  老人の言葉に、私は一瞬ためらった。確かに、この村は限界に近づいている。学校も閉校し、商店も次々と閉店した。村の未来を考えると、ダムが必要なのかもしれない。でも、それでも私は自然を守りたかった。この湖と森は、私の心の安らぎだったのだ。  次の日、私は手紙を書いた。役場の人々や村長に、私の思いを伝えるための手紙だ。手紙には、ダム建設の中止を求める理由と、村の自然を守るための具体的な提案を書いた。手紙を送り出すと、私は再び湖のほとりに立ち、抗議を続けた。  数日後、役場から返事が届いた。手紙には、私の意見を尊重し、再検討するという内容が書かれていた。村長からも、私の行動に感謝する言葉が添えられていた。私は一瞬、希望を感じたが、その後に続く言葉で心が冷えた。「しかし、現実的な問題から考えると、ダム建設は避けられないのが現状です。」  その夜、私は一人で湖のほとりに座り、星空を見上げた。この湖も森も、もうすぐ消える。私は涙を流しながら、心の中で自然に別れを告げた。でも、どこかでまだあきらめきれない自分がいた。翌日も、私は抗議を続けた。誰もが無駄だと言っても、私は最後まで戦い続けるつもりだった。  決定事項。それが覆されることはないかもしれない。それでも、私はこの美しい自然を守るために、たった一人でも立ち向かう覚悟を決めていた。
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