9人が本棚に入れています
本棚に追加
「お伝えしていますように、本日✕✕山にて遺体が見つかりました。損傷が激しく身元の確認を急ぐとともに、事件事故と熊の被害を視野に捜査を開始します」
そのニュースを、信じられない思いで見つめる。どういうことだ、と思うと同時にガタガタと震える。熊のはずない、それをやったのは……。
暇つぶしに山に行かないか、と友人から誘われた石川は準備を進める。体を動かすのが好きで、特に山登りや渓流に行くのが好きだ。車で迎えに来てくれた友人、新井と最初は楽しく談笑していたが。
「大丈夫か? なんか顔色悪いけど」
「あー、ちょっと風邪気味。あと、気が滅入ってるだけ」
「なんかあった?」
石川は長らく仕事で海外にいたので連絡をあまり取っていなかった。帰国してまだ二ヶ月だ。
「実は、今別居中。もう離婚だろうな」
「え」
新婚なのに? とはさすがに言えない。黙っているとポツポツと新井は語る。
「俺のことそこまで好きでもなかったみたいだ。不倫をゲームみたいに楽んでた。それを問い詰めたら冷めた、とかいってどっか行ったよ。捜索願出したらDVで訴えるからとか言われて。そのまま」
「あー。暴力系は言われちゃったら立場悪いね」
暗い話はこれくらいで、と別の話題にして山に向かう。ハイキングコースもあるが、少し険しい獣道もあるらしい。
シーズンオフということもあり登山者は少ないだろうとは思っていたが、自分たち以外は誰もいない。
「ま、美味い空気をたくさん吸ってしゃっきりしよう」
「ああ。悪いな付き合わせて」
げっそりした様子の新井に、石川は心配になる。確かに新井が彼女に惚れ込んでの結婚だった。最初からキープだったのだろう、ここまで意気消沈した姿は見たことがない。SNSで見た綺麗な川、それを見たいということで二人は登り始める。
しかし遊歩道を歩いていると立ち入り禁止の看板があった。道の向こう側は土砂崩れでもあったのか、大きな石や倒木が転がっている。
「なんかあったのかな?」
「さあ、俺も特に調べてないから。ま、俺が行きたい渓流はこっちじゃないから大丈夫だ」
新井が顎で指し示したのは、雑草が生え放題の細い道。土砂崩れのようなものがあったのなら、そちらには行かないほうが良いのではと思ったのだが。新井は構わずそのまま進んでいってしまった。
慌てて追いかけるとすぐに川の音が聞こえてくる、どうやら意外と近くだったようだ。だが、気のせいだろうか?
(なんか、生臭くないか?)
最初のコメントを投稿しよう!