山女

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 意気消沈しながらも石川は必死にその地のことを調べた。あれが一体何だったのかはっきりさせたい。  するとその近くに住んでいた人が老人ホームに入居しているとわかり会いに行った。認知症が始まっていて話を聞きだすのには苦労したが。 「ヤマメだぁ」 「ヤマメ? 魚の」 「あそこの山でヤマメと言ったらあいつのことだ」  その地域に古くから伝わる化け物。女の姿をして男を誘惑し生きたまま食ってしまうと言う。  同じ話を何度もしたり途中でわけのわからないことを言い始めるので、適当に相槌を打ちながら手元のスマホでヤマメを調べる。魚の方、本来の山女だ。 (川の上流のほうに住んでいて、一生その川で過ごす。鮭と違って海に行ったり他の場所に行くことがないのか) 「オスとも出会えず一匹で過ごした山女はどんどん大きくなって、他の魚を食って、それだけじゃ我慢できなくなって人間を食う。人間を食うには人間の姿になる、ってなあ。うんうん。だあから、釣りは毎年せにゃいかんのになあ」  あの地域の人は定期的に魚釣りをすることで山女を発生させない習慣があったのだろう。限界集落となり人がいなくなったことで山女が生まれてしまったのだ。  山の女、だから女の姿となって男を誘惑する。おそらく出会うにはいくつか条件がある。常にいるのなら毎年被害があってもっと大きなニュースになっているはずだ。  SNSで川の景色を上げている人たちは無事だった。条件が揃わなければあれは出てこないのだ。条件はわからない。今回は本当に不運だったとしか言いようがない。  あの化け物が先に食い散らかしていたから、臭いに気づいて正気に戻ることができた。新井は風邪気味だった、臭いに気づくことができなかったのだ。あの時臭いの話をしていたら、と思うとやり切れない。  それ以上の話は聞くことができず、石川は施設を出た。誰かに話しても信じてもらえない、それなら自分にできる事は無いのではないか。 (友達を死なせておいて、俺はのうのうと生きなきゃいけないのか)  憂鬱な気持ちで帰路についた。生活していくためにも就職活動を再開しなければいけない。
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