§2.近い存在に

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 ドキドキと胸が高鳴ってくる。  不意にバチッと至近距離で視線が合い、社長のミステリアスな瞳に吸い込まれそうになった。  社長はパーフェクトな男性で私とは釣り合わないとわかっているから、自然に会話を交わすだけでも私にはむずかしくて挙動不審になる。  今も頬が熱い。きっと顔が真っ赤になっていると思う。私はそれを指摘されたくなくて、再びうつむいて後ろも見ずにあとずさった。 「危ない!」  マネキンスタンドに足を取られてうっかり転びそうになったところを、社長が咄嗟に私の腕を引いて助けてくれた。 「す、すみません」 「足、捻ったりしてない? 大丈夫?」 「はい。ありがとうございます」  転ばなくてよかった。マネキンには明日から発売のゴルフウェアを着せて準備してあるし、周りにはゴルフ用品の展示もある。もし私がそれらを倒していたら大惨事になるところだった。  きちんと顔を見て助けてもらったお礼を言いたいのに、しっかりと社長に背中を抱きかかえられているから恥ずかしくて目を合わせられない。 「展示が無事でよかったです」  社長のたくましい腕から解放され、ホッと息をつきながら動いてしまったマネキンを元の位置に戻していると、フフッとあきれたような笑い声が聞こえてきた。 「俺はマネキンより君のほうが心配なんだけど」  せっかくの気遣いを無視したような感じになり、いたたまれなくなって社長に会釈を返した。  ダメだ。社長と一緒にいるだけでドキドキして調子が狂う。
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