§1.意外な縁

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倫治(ともじ)さん、冴実ちゃんが来とるよ」  テーブルと椅子がびっしりと並べられている部屋の一番奥で、祖父が腕組みをしながら碁を打っていた。  相手をしてくれているのは、祖父とは旧知の仲だという辰巳(たつみ)さん。  辰巳さんはいつ会ってもにこにことした柔和な笑みをたたえて、恰幅のいい体型をしているのもあってとてもやさしい印象だ。  ふたりのそばまで行き、「こんにちは」と頭を下げてあいさつをした。 「おじいちゃん、傘を持ってきたよ」 「おお、すまんな。でも……こりゃもう少しかかるぞ」  祖父が碁盤を見つめたまま、むずかしい顔で返事をした。  私にはわからないけれど勝負が拮抗しているのか、祖父はプロ棋士さながらに次の手を考えている。   「倫さん、まだまだ俺には勝てんな」 「いやいや、たっちゃん、実力の差は縮まっとる!」  祖父が囲碁に没頭し始めたのは、ここに通い始めて辰巳さんと打つようになってからだ。  腕前は辰巳さんのほうが上みたいで、祖父はなんとかそのレベルに追いつきたいらしい。  ふたりは馬が合うのか、いつも一緒にいて楽しそうに会話を交わしている。祖父にこんなにも仲の良い友人がいてよかった。 「冴実、終わるまで待ってるだろ?」 「うん。おじいちゃんとなにか甘い物を食べてから帰ろうと思ってるから」
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