§1.意外な縁

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 この近くに祖父が気に入っている花野庵(はなのあん)という名の甘味処があり、そこに寄るのが実は密かな楽しみなのだ。  休みの日をこんなふうにゆったりと過ごすのも、ある意味贅沢だと言える。 「いいなぁ。こんなにかわいい孫娘と一緒に暮らして、デートまでしてくれるんだから倫さんは幸せだな」 「そうか? 彼氏がおらんのも問題だ。このままじゃ結婚できん」  祖父は照れ隠しで言っただけなのかもしれないが、私はその言葉を聞いてわかりやすく口をへの字に曲げた。  そんなやり取りを見て、周囲にいた中高年のおじさんたちがアハハと笑う。 「結婚だけが幸せじゃないよ。いろんな生き方があるからね」  これに関しては、世代が違うのもあって祖父とはまったく意見が合わない。  私が二十代のうちに結婚をして早く子供を産んでほしいと祖父が望んでいるのは知っている。  だけど人それぞれの幸せの形があっていいはずだし、私は自分の幸せは自分で決めたい。   「倫さんは冴実ちゃんを心配してるだけだよ」  辰巳さんの穏やかな声を聞いていると、次第に口角が上がっていくから不思議だ。  私の祖父はぶっきらぼうで頑固なところがあるけれど、辰巳さんはとても温厚だから話すたびに癒される。 「でも……今は仕事が楽しいからなぁ」 「出世がしたいのかい?」 「そういう欲はないけど、責任もあるし、がんばりたいの」
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