§1.意外な縁

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 私が仕事人間になるなんて、学生時代の自分を思い返すと想像もつかない。  元カレと付き合っていたころは恋愛がすべてで、なによりも恋人を優先していたくらいだから。  だけどその恋もうまくいかず、就職してからの私は恋愛から遠ざかり、心血を注げる対象は仕事だけになったのだ。  仕事での成果は次のやりがいに繋がっていくから、私にとっては恋愛よりもわかりやすい。 「すごく素敵でカッコいい女性の上司がいて、その人が私に目をかけてくれてるんですよ」 「へぇ、そうなんだね」  商品部の部長は、五年前に我が社にヘッドハンティングでやってきた伊地知(いじち)さんという女性なのだが、私が新入社員のころから真剣に仕事に取り組む姿勢をとても評価してくれている。  ジニアールは“アミュゾン”という自社ブランドを商品展開しているのだけれど、私は商品部の人間としてなにができるのか、退勤後や休日でも常に考えるようになった。今はオンもオフもない。  伊地知部長が私に期待してくれているからこそそれに応えたいし、努力は実を結ぶと信じたい。 「だけど彼氏はいなくても、気になる程度の男もいないの?」 「うーん……気になるっていうか、すごく憧れてる人ならいるかな。昔から尊敬しているんです」  意味深な発言をしてしまったが、今咄嗟に頭に思い浮かんだ人は、私が勤めている会社の社長だった。  とはいえ私が恋人になれるとは微塵も思っていない。対面できちんと話したこともないのだから。  社長は本当に素晴らしい人で、日々の努力を惜しまないというモットーにも共感できる。  目を奪われるのは女性だけではなく、あんなふうにカッコよくなりたいと憧れて目標にする男性もきっと多いはずだ。
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