暗中模索

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 ようやく終わった、と思っていた松木彩(まつきあや)の元に、高校からの親友の出産の知らせがきた。  へぇ、生まれたんだ。 「無事に男の子が生まれたんだね! おめでとう!!」と、すぐに返信は入れたものの、彩はげんなりした。またお祝いしないと……  先週も大学からの友人の結婚式に呼ばれ、お祝いを渡したところだ。結婚の予定がない彩は、このところ友人たちのお祝いばかりしている。社会人四年目、気が付けば友人のほとんどが結婚し、先週でお祝いするのは最後で終わったんだ、と思っていたのだ。 「そうかぁ。出産祝いへと続いていくのか」  と諦めても給料は増えない。先週のお祝いなどでお金はスルスル出て行き、今月はこれ以上の出費は抑えたい。少ない資金で出産祝いは、何をあげればいいのか。スマホで検索した。 「うわ、これ」  告知を見つけた。自転車で10分で行ける近所の大型ショッピングモールで、子供向けの商品を扱っているお店が改装前のセールをしているとのこと。日曜の今日は家でのんびりしようとしていたけど、彩は急いで支度し、その店に向かった。  ショッピングモールの三階に着いた。フロアの半分ぐらいをその店が占めている。家族連れでごった返す店内を見て回るが、何がいいのかサッパリわからない。積まれた紙オムツが、押し寄せてきた客に次から次へと持っていかれる。  そっか。オムツは絶対に必要だもんね。  彩も手を伸ばそうとして、ハタッと気付く。新生児用って、それは友人も購入しているか。じゃあ、Sサイズ。と引っ掴み、レジに行く。会計を済ませて、お店を出ようとしたところで、 「可愛い!」と、足を止めた。  大人顔負けのオシャレな服が小さいサイズでワゴンに並べられていた。さっき店に入るときは気付かなかったが、セール品で安い。これもお祝いにしよう。一つ手に取り広げて見ていたら、ツンツンとスカートの裾を引っ張られた気がし、彩はそっちを向いた。  小さい女の子だった。何とかっていう魔法使いのアニメのキャラクターのTシャツを着ている目の大きな女の子だった。 「ママがいないの」  え、迷子?  何故自分に言ってくるのか、彩は理解できずに女の子のふっくらとした頬っぺの顔をじっと見つめた。すると女の子の大きな目が次第にウルウルしてきた。彩は急いで笑顔を貼り付け、女の子の目線にしゃがんだ。 「えーと。お名前は?」 「みおちゃん」  ちゃん、って自分に付けちゃうんだ。ワゴンに他の客も寄ってきたので、「こっちに行こう」と、しゃがんだまま手を引いて少し離れた。 「いくつ?」 「さんしゃい」  みおちゃんは自分の顔の前で指を二本たててから、薬指をおもむろに追加した。三本たてるのに慣れていない感じだ。きっと三歳になったばかりなのだろう。  彩はみおちゃんに質問しながらも、辺りを見回していた。けれど、みおちゃんを探しているだろう母親らしき人は見当たらない。おまけにセール中だからか、手の空いた店員も見当たらない。目についた店員は接客中、レジには常に列ができていた。なるほど、店員さんが忙しそうだから、近くにいた大人に助けを求めたのか。  ようやく、みおちゃんが自分に話しかけた理由を悟った彩だったが、こういうときはどうすれば……  母親にみおちゃんがはぐれていることを知らせるのは、館内放送をするところに頼むべきなんだろうけど、それって何処?  スマホでこのショッピングモールのフロアガイドを検索していたら、みおちゃんが声を上げて泣き出した。  え。  気が付くと、周りにいた客がほとんど彩を見ていた。  これって、子供のことを見ないでスマホばかり見ている母親、に見えている?  無言の非難に、慌てた彩。 「みおちゃん、ママを探しに行こう」  と、みおちゃんに小声で耳打ちするや否や店を出ていったのだった。    
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