暗中模索

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 川崎多江(かわさきたえ)は焦っていた。  娘の美央(みお)の洋服を買いに大型ショッピングモールの子供用品を扱っている店に入ったのだが、改装前のセールをしていて思わず夢中になって商品を見ていた。最近は食費や生活必需品が値上がりばかりで家計がひっ迫している。なのに、娘の服はすぐに小さくなってしまう。セールをしているのなら、少し先のサイズの服も買っておきたい。そう思って、躍起になって商品ばかりを見ていた。気が付くと、連れて来た美央がいなかった。 「美央?」  近くを探すが見当たらない。  魔法使いのアニメが好きだから、玩具のコーナーに行ったのかと探すが、そこでも見つからなかった。 「すみません、三歳の『魔法使いキラリン』のキャラクターのTシャツを着た女の子を見かけませんでしたか?」  売り場の商品を見ている人に声をかけて訊ねるが、知らないと答えられた。 「もう、何処にいったの?」  まさか、他の店に行ったんじゃあないでしょうね。  不安に駆られ、店の出入り口まできた。ワゴンに人だかりが出来ている。そこでもう一度、娘を見かけなかったか、人に訊ねてみた。 「ああ。魔法使いキラリンのTシャツの女の子。その子ならさっき大声で泣いていて、お母さんと一緒に店を出て行きましたよ」  多江は一瞬、美央とは別の子供の話か、と考えた。けど詳しく特徴を聞くと美央に間違いがないようだった。 「え、泣いていた女の子を連れて行った人って、ママじゃなかったんですか?」  多江とのやり取りが聞こえたのか、近くにいた他のお客さんが会話に入ってきた。 「母親は私です。でも、女の人が美央を連れ去って行ったんですか?」  頷かれる。最悪だ。多江は急いで一階のインフォメーションの所に向かった。
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