scene 22.

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scene 22.

 長い長い旅路を終え、俺は懐かしい故郷に帰ってきた。  あの頃と何も変わっていない。頬を撫でる風も、あの丘の天辺にそびえる大きな木も。  あの木の下で、告白された。  幼なじみのあいつに。  いつもはにかんだように口元に笑みをたたえて、俺の隣にいてくれた。  勇気を振り絞って、という顔で、俺に告げてくれたのに。  俺は……俺は、あいつから逃げるようにこの街を去った。  怖かった。  あいつとの関係が今までと変わってしまうことが。  怖かった。  家族や友人からどんな目で見られるかが。  でも、分かったんだ。  俺にはあいつが必要だということが。    今更、と言われるかもしれない。  それでも俺は――。  あの頃を思い出したくて、丘を登りあの木へと向かう。  青々とした葉の擦れる音が耳に届く頃、幹に寄りかかる人影が見えた。  向こうも俺に気づいて、はっとしたように身を竦ませる。    俺はゆっくりとあいつに近づいていく。  なんと声をかけよう。あいつは笑ってくれるだろうか。  あの頃と同じ笑顔で。  2024/09/19
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