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scene 24.
「付き合ってくれ!」
「は?」
何に?
高二の秋。もうすぐ文化祭ということで、連日準備に追われる日々。
入学以来の親友、谷崎が突然そんなことを言い出した。
ちょっと休憩しようぜ、と腕を掴まれ。
なんかいつもの谷崎と違うな、と違和感を感じながら。それは屋上に着いた途端、確信に変わった。
緊張感漂う谷崎が、ぐっと拳を握りしめて俺を見てくるもんだから、何を言うのかと思ったら。
「買い出しなら、さっき山田達が……」
「違う」
えーと。
「トイレに? いやあ、女子でもあるまいし連れションはちょっと……」
「トイレでもない」
まあそれならわざわざ屋上に来ないか。しかし、買い物でもトイレでもないとなると。
うーん、と腕を組んで考え込んだ俺に痺れを切らしたのか、谷崎は「だからさあ」、ときっと睨みつけてきた。
「俺はお前と付き合いたいっつってんの! 恋人同士としてっ」
「へ……」
こい……びと?
「俺だって、こんなタイミングで言うつもりなかったよ。でもお前が……山田達と、その」
山田達と……何してたっけ、俺。
「なんつーか……ベタベタしてたから、焦ったっつーか……」
ベタベタ? いや、それただふざけてただけだと思うけど。
「とにかくっ、イヤだったんだよ俺は……グズグズしてて他のヤツに取られたらと思うと、もう場所とか雰囲気とかどうでもよくなって」
そこまで一気にまくし立てて、谷崎はついっと眉を寄せた。
今にも泣きそうな、悲しい顔。
「好きなんだ……川西。俺と、付き合ってくれ」
正直、告白されたのなんか生まれて初めてで。
それよりまず、俺らが男同士だってことは考慮に入れるべきだよな?
もちろん、谷崎を恋愛対象として見たことは一度もなく。え、これって即答しなきゃダメなやつ?
あーとかうーとか言葉を探して頭をくしゃくしゃしてたら、谷崎がふっと笑った。
「もう、いいよ。……困らせて、ごめんな」
そう呟いた声は、秋風にさらわれていった。谷崎はくるりと踵を返すと、屋上の出入り口に向かっていく。
ざわっと背筋に冷たいものが走った。
――行ってしまう。谷崎が。
あんな寂しそうな笑顔、見たことない。
あいつにそんな顔させたままで、いいのか? 俺。
谷崎と知り合ってからの一年半の出来事が、くるくると頭の中を廻りだす。
気づけば俺は、谷崎の腕をがっしりと掴んでいた。
目にうっすら涙を浮かべた谷崎が振り返る。
俺は――どうする。どうしたい?
「谷崎。俺――」
2024/09/26
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