ユメミグサの境界線

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「これを言ったのは小春さんが初めてです」  ふふふ、とマスターが微笑む。私もつられてふふふ、と微笑んだ。 「その妻が言っていたんですが、川沿いの桜並木はあの世とこの世の境界線なんだそうです。確か、って言っていたかな」 「ユメミグサ?」 「桜の別名です。そのユメミグサの境界線を、故人を想いながら跨ぐと故人と会うことができるんだとか。まぁ都市伝説ですけど」  初めて聞いた都市伝説だ。昔、都市伝説が流行っていたしある程度の都市伝説は知っていたつもりだったのに。私はへー、という口ぶりで相槌を打つ。 「信じるか信じないかは小春さん次第ですけどね。でも、もし信じて実行した時は私に教えてください」 「分かりました」 「きっと、彼氏さんにがある小春さんになら、奇跡は起きるでしょうね」  私は最後の一口を啜ると、それからしばらくマスターと談笑してから帰宅した。帰宅途中、ユメミグサの境界線について調べてみたけどヒット数はゼロだった。  川沿い桜並木はあの世とこの世の境界線。そこを故人を想いながら跨ぐと故人に会うことができる。  私は家から少し離れた場所にある桜並木にやって来ると、昨日マスターが言っていたことを脳内で反復した。ユメミグサの境界線についてはどこにも載っていなかった。情報源が曖昧だから信憑性もない。でも都市伝説なんて、全部そんなもんだ。  桜の向こう側は川。跨いだ先にある地面は急勾配。これが違っていたら私はそのまま川に落っこち、大怪我だ。怖い。でも颯人に会いたい。会って話がしたい。都市伝説でも何でも良いから、とにかく彼に会いたかった。会って話がしたい。この10年、颯人を思い出さなかった日はなかった。 『きっと、彼氏さんに届けたい想いがある小春さんになら、奇跡は起きるでしょうね』
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