11人が本棚に入れています
本棚に追加
「天ちゃんは顔、可愛いんだからさ」
私の左側。空見先輩がバニラ色のビートルを運転している。
「その変な服やめれば、ちゃんとモテると思うよ」
県境の長いトンネルを抜けると、春。
「モテたくありません、別に」
ライナスみたいに、
ラッキーストライクを咥えて離さない先輩が、この古いドイツ車の中ではぜったいに煙草を吸わない。
「でも、セックスはしたい。と」
したいわけじゃない、別に。
空見先輩を選んだのは、理由はいろいろあるけど。
ひとつ。乗っている車が可愛い。
オモチャみたいな、作り物みたいな。
すべてが理想的で完璧。
最初のコメントを投稿しよう!