夢ぎわロストバージン

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「俺の車じゃない。親父の」 車の名義なんてどうでもよくて。 「ヤニつけたら親父にぶちのめされる」 空見先輩は、どんな女の子より、この車を大切にする。 その薄情さが、いい。 出会ったのは一年前。賑わう春のキャンパスの隅っこ。 「コゼット?」 薄ピンクのボンネットをかぶった私と目があって、空見先輩はそう聞いた。 サークル棟の、北側のベランダ。喫煙禁止と張り紙のあるその前で。 あふれた銀の灰皿。吹き溜まりに、青ざめた花びら。 捻じれた、ラッキーストライクの箱。 「そうです」 開いた唇から、もわり、と怪獣みたいな煙。 桜吹雪が、押し流して。 ピクニックシートをビートルに積んで。 県境の山の方に出かけた。
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