夢ぎわロストバージン

5/10
前へ
/10ページ
次へ
誰も通らない山道にビートルを停め、赤のタータンチェックのシートを引っ張り出す。 クロスベルトの厚底パンプスで、誰のものか知らない雑木林の奥へ、勇猛果敢に突撃。 「何でそんな靴履いてくるの」 丸めたシートを肩に担ぎ上げた先輩が、山道をずるずる滑る私にまともな指摘をする。 「靴、これしか持ってないんで」 「嘘でしょ。体育のときは」 「これで跳んだり走ったり」 「嘘でしょ」 「元陸上部ですよ?」 「それも嘘でしょ」 ケラケラと白い歯並びを覗かせて、空見先輩が笑う。 ヘビースモーカーの割に、意外にきれいな白い歯。 空見先輩を選んだ、その二。 舐めてばかりのリップ。安物のメッキのアクセ。 投げやりで、場違いで、役立たずの。 陶酔。全能感。破滅的で、刹那的な。 天啓。 「あ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加