お見舞いにそっとこめて

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「あぁぁぁ、あのね! これ、今日休んだ分の授業のプリント‼ あと、あとは熱高いって聞いたから、スポドリと栄養補給のゼリー! あと、あとは……」  とりあえずコンビニでスポドリを買った時のビニール袋に全部詰めたものを、押し付けるように辻に渡した。 「あと、あとは……」  わざわざ来たんだから、伝えればいい。  そう思うのに、「す」の文字が出てこない。 「はっ、早く治しなさいよね!」  あーっ、私の意気地なし。ここまで来て言えないなんて。  恥ずかしくなって、すぐに踵を返した。  でも顔を見れただけで、少しホッとした。  いつも辻の方が余裕ある顔しているのに、驚いた顔を見られたのもよかった。 「東条っ!」  立ち去ろうと思ったのに呼び止められたから、そぉっと振り返ると、マスクで口元は隠れているけど、目元が綻んでいる辻がいた。 「これ、サンキュ」  右手をあげてぶら下げていたのは、私たちが応援しているプロバスケチームのグッズで、マスコットキャラクターのシークレットキーホルダー。  何パターンかあって、お守りみたいにそれぞれに意味があったんだ。友情とか、勉強とか、健康とか。  マスコットが持っているボールにそれぞれ意味を持つイラストが描かれている。  辻がこのシークレットキーホルダーの意味をわかっているかはわからないけど、これが今の私の精一杯。  あげたキーホルダーのマスコットが抱えているボールには、小さくハートが描かれている。  いつか、ちゃんと伝えるんだから。  その時にはもっと驚かせるんだからね。  密かに心のなかで決意をしながら、見送る辻に手を振った。
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