飛永先生は己の信じた道をゆくらしい

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真面目な顔で言うので、思わず背筋がしゃんとする。先生のおかげで楽しそうに話せるけれど、つらい状況に置かれていることに変わりはないのだから。 大学受験に向けた正念場の夏休み、急に体調が悪くなった。体がだるくて微熱が続く。熱中症じゃないかと思ったけれど、いっこうに回復の兆しはなかった。 病院を受診して告げられた病名は「急性骨髄性白血病」。治療のために長期の入院が必要となり、大学受験をあきらめなければならない。 晴天の霹靂で降りかかる悲劇の物語、わたしはその物語のヒロインになってしまった。 「大事な話だったら、予告ぐらいしてください。このか弱き心臓が持ちません!」 「ああ、そうですか。それでは明日、出直してきますから、心構えをしていてください」 「ちょっ……気になって眠れなくなっちゃいますってば!」 先生は、まあそうでしょうね、と言って報告書をわたしに差し出した。 「今日、検査結果が返ってきて、お兄さんとHLAが一致していました。健康な方ですから、造血幹細胞移植のドナーとして申し分ないと思います」 「あっ、ありがとうございます!」 「移植の予定は2か月後です。今回の地固め治療から回復したら、移植の準備に入ろうと思います」 さいわい、経過は想像以上に順調だった。初回の化学療法で寛解状態になり、治せるという希望が色濃くなって、いくばくかの安堵を得ることができた。 「移植って、他の人からパワーをもらって病気をやっつけるんですよね」 昔観たアニメで、世界の人々から元気を分けてもらう必殺技を思い出してそう言った。けれど先生の真面目顔は微動だにしない。 「いいですか、造血幹細胞移植っていうのは、強力な化学療法と放射線で血液細胞を全部叩いた後に、新しい細胞を入れて血液を作ってもらうんです。それこそ命がけの治療なんですよ」 「命がけなんですか!?」
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