飛永先生は己の信じた道をゆくらしい

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聞いて背中がぞっと冷たくなる。移植ってものを安易に考えていた軽率さを後悔した。 「再発を防ぐためには移植するのが一番有効な方法です。ただし移植を受けたら学業への復帰も時間がかかるし、高い確率で子供が産めなくなると思います」 「そうなんですか……」 出産についてなんて、考えたこともなかった。だいたい、彼氏がいたことだってまだないのに。ただ、完全に健康な自分には戻れないという落胆が、寒々しい風となって心を吹き抜ける。 それでも先生が最善の方法だというなら受け容れるしかない。だって、先生はわたしの病気を治すことを一番に考えてくれているんだから。 「しょうがないですよ……」 ためらいつつも小声で返事をする。けれど先生は釈然としない顔をしていて、何を考えているのかよく分からなかった。 それから先生は去り際に、「明日から一週間ほど留守にします。けれど、グループの先生は皆いるから心配しないでください」と言い残して去っていった。 看護師さんから収集した情報によると、大学院を卒業しても研究を続けていて、ついに米国で研究の成果を発表するらしい。 白衣の背中姿をカーテンのメッシュ越しに眺める。ふと、病室のカーテンの上部がメッシュ構造なのは、スプリンクラーの水が部屋全体にかかるようにするためだって、先生が教えてくれたことを思い出した。 応援しなくちゃ、って思うけれど、先生に会えないと、とたんに病院が牢獄みたいに思えた。看護師さんに文句が増えそうだし、さみしくて泣きそうになる。 その夜、急に寒気がして発熱した。気落ちしたせいかと思ったけれど、治療の影響で白血球が減ったせいらしい。熱に浮かされて、先生に遭う夢を何度も見た。
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