飛永先生は己の信じた道をゆくらしい

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一週間が過ぎた。白血球が回復してきたみたいで、ようやっと熱が落ち着き、ひさびさにクリーンルームから出る許可が下りた。

点滴スタンドを転がしてナースステーションを覗くと、飛永先生の背中姿が見えた。殺伐とした牢獄の日常ともこれでおさらばだと内心、小躍りしてしまう。

声をかけたい、そう思ったけど、先生たちが輪になり討論を繰り広げていた。飛永先生は硬い表情で白髪の高畑教授と対峙していた。

ただならぬ雰囲気を察したので、壁の後ろに隠れて耳をそばだてる。盗み聞きなんて悪いとは思うけれど、病気の悪性度から比べたらたいした罪じゃない。

「飛永君、きみは何を言っているんだ、そんなのは常識的じゃない。最適の条件のドナーがいるし、病状もコントロールされているのだろう」
「それでも滝崎さんは移植するべきではないと、ぼくは考えています」

――えっ？

なぜ先生が医療の常識を否定しているのか、理解できなかった。

「再発したら疾患の性格はより悪化する。患者は追い詰められていく一方だ」
「だけど、もしもぼくの解析と海外の研究結果が一致するのであれば、彼女の白血病は――」

高畑教授は声を荒らげて飛永先生の言葉を遮る。

「何度も言わせるな。常識として確立していないものを信じるなど、医師としてありえないぞ！」
「しかし！」
「いいかい飛永君、きみの役目は患者の腫瘍を完全に叩き切ることだ。だから迷わず血で血を洗いなさい！」

血を血で洗う――その表現は移植治療のことに違いない。

高畑教授は怒り心頭の様子でナースステーションを去っていった。わたしはそそくさと自分の病室へと舞い戻る。

振り返ると、飛永先生の思い詰めたような顔がガラス越しに見えた。

その日、飛永先生がわたしの病室を訪れることはなかった。