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先生は翌日になってから、朝の回診で病室を訪れた。けれど表情は曇天を引きずっている。
正直なのは医者として致命的なんじゃないかと心配になる反面、信頼できる先生らしいという安心感も覚える。気づかないふりをして「ご無沙汰していまーす」と能天気な挨拶をした。
「だいぶ元気になったみたいですね。大変な時にいられなくてすみません」
「なんで先生が謝るんですか。さては海外で浮気でもしたんですか?」
「大人をからかうのはよしなさい。浮気というのは特定の相手がいてこそ成立する現象です」
「あーっ、わたしのことをほったらかしにしたあげく、特定の相手からつまはじきにしましたね?」
可愛こぶって頬を膨らましてみたって、どうせ洒落っ気のないすっぴんの丸坊主。けれど1週間も待たせたんだから、ちょっとくらいはわがままを言わせてほしい。
「滝崎さん、間違っても誤解を招くようなことを、ほかのスタッフには言わないでください。ぼくが病院をクビになってもいいんですか?」
「ひゃっ、それは困りますから自重しますっ!」
普段通りの真面目顔で腰を下ろし、わたしの目をじっと見据える。わたしもベッド上で正座になって向かい合った。
「きみに聞いてほしいことがあります」
「はい」
飛永先生は慎重に言葉を紡いでゆく。
「移植をやめる、という選択肢があるんじゃないかと、ぼくは思うんです」
「やめる……んですか?」
ナースステーションで先生が言っていたことは聞き間違いではなかった。でも、どうして?
「なぜなら、きみの白血病は移植の必要がないかもしれないからです」
「えっ……?」
「ぼくは今までこの病気の遺伝子解析を研究してきたんです。そこできみの病気の細胞を調べたところ、とある遺伝子異常が見つかりました。最近発見された、新しい異常です」
思い出すと病名告知の時、先生は研究の話をし、父親が書類にサインをしていた。その時は頭が真っ白だったけれど、あれはサンプルを研究に利用するための承諾だったのか。
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