9 火の華の下

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 屋台が多くあった広場から出ると、花火を見ようと大勢の人が空を見上げて立っている。 「ここら辺だと多分見えるな、ここで見ようぜ」  ここの大広場は屋台の光がないため、夏の夜の空がよく見える。空は花火が打ち上がるには丁度いい快晴、数え切れないほどに星が瞬いている。  俺は茉白と立ち止まって空を見上げた。 「花火、あと何分後?」 「あと10分後」 「もうすぐか」  俺は快晴の夜空を見上げると、何故か遥が脳裏に浮かんだ。 (遥のこと思い出すと…エッチな場面の姿しか出てこない…空見上げながら何考えてんだ俺…いやこれは全部茉白のせい…)  茉白のせいとは言っても、こんな事を想像して、悪くないかも…と思ってしまう俺はドが付くほどの変態だ。  そして、俺の腰を持ちながら俺の耳元に近付き甘く囁く遥の姿を想像してしまうと、空想だと言うのに、つい体が下から上まで熱を持つ。 (あーせっかくこれから花火だってのに、ムラムラしてきた…最っ悪…) 「あれっ、伊吹じゃーん!」  ここで突然、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、何やら見覚えのある、甚平を着た男が立っていた。 「えっ!朝日…!?」  声をかけてきたのは、中学三年の時に同じクラスであった同級生、泉朝日(いずみあさひ)であった。 「おー朝日!!」  茉白も朝日の存在に気付いたようだ。 「久しぶりだなー!二年ぶりくらいか?今日お前ら二人?」 「中学の卒業式以来だね。そう、今日は茉白と二人で来た。」 「何か懐かしいな!俺も友達と来たんだけど、あいつは屋台になんか買いに行った。あと多分こっちに来る。そんで、お前ら相変わらず彼女無しかー!安心するわ」  やっぱり皆も、夏祭りと言えば好きな人や恋人と…っていうのが理想なんだな。今俺が読んでるBL漫画もそうだ。夏祭りと言えばデート…。俺も早く遥と行ってみたいな、なんてことを考えてしまう。 (いやいや、まだまともに話せてすらないのに、展開が早すぎるよな…。先走らないで、また帰ったらBL漫画読んで勉強しよう…)  そして何やら、周りにいた人達がザワザワし始めた。 「そろそろ花火始まるねー!」  近くにいたカップルの女の人が言っているのが聞こえた。 (花火そろそろか、楽しみだな)  俺は夜空を見上げて、火の華が夜空に咲くのをジッと待っていた。 「あっ、来た。遅いぞー!!」  朝日が屋台から帰ってきたであろう友達にそう言った。何やら大きめのりんご飴を持った男が、こちらへと歩いてくる。 「え、待って、は、はる…!!??」  なんと、こちらへ向かってくる朝日の友達とは、遥のことだったのだ。いや、俺の見間違えかもしれない。目を凝らして、もう一度こちらへ向かってくる男をジッと見てみる。 (…やっぱりあの人…遥だ)  俺は夢なのではないかと思い、頬を抓ってみる。…夢では無い。 「は!?お、お前…!なんでいんの…?」      遥も当然、俺の姿を見つけては立ち止まり、目を大きくし吃驚している。俺の姿を見て驚きを隠せていない。それはそうだ、俺も言葉が出ない程に驚いている。 「え、伊吹と遥って知り合いなのか…!? お互いビックリし合ってるじゃん…笑」 「え、あ、う、うん…」  朝日は俺と遥を見て言った。  この人は最近俺が一目惚れした方なんですよね…。ていうか、遥に会うタイミングが最悪だ。今俺、遥を見たら… 「…お前、俺ってわかった瞬間から分かりやすくキョドってるけど、予想外で俺に会えたからって、緊張してんの?笑」  会う度に遥の口から出る意地悪気な言葉。聞くだけで、俺の心臓はドキンと音を立てて、色欲が高まってしまう。  ついさっきまで、お前でエッチな想像していた…なんて言えるはずがない。そして、空想の世界にいた遥が急に目の前に現れて、平然としていられるか。  黙っている俺を見た遥は、覗き込むようにして俺の顔を見てくる。いきなり遥の綺麗な顔が俺に近付き、分かりやすく心臓が跳ね上がる。 「緊張するに…決まってるだろ…」 「っ、は?」  俺がか細い声でそう言うと、遥は何故か頬を紅く染める。そして後に俺に近付けた顔を遠ざけた。 「…なあ茉白…俺こいつらのこと何も知らないけどさ…なんかデキてる…?」 「デキてんじゃねえの?笑 つーかドS王子、マジでイケメンだな」  俺は遥に意識を持っていかれすぎていて、既に空へと咲き始めていた火の華の存在にも、茉白と朝日の会話も、何も耳に入ってきていなかった。
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