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「…ふぁぁ…眠」
一週間の始まりの月曜日。蝉の泣く声が風のように耳へと響いてくる。暑さのせいで、外へ出て駅へと向かうまでの道のりでさえ疲れてしまう。
(あっつ…月曜日の朝から最悪だ)
俺は手持ちの扇風機を汗で張り付いた前髪に当てる。
そんなことをしている間に、時間ピッタリに電車が俺の前で止まった。あまり人のいない駅だから、遅めの電車に乗っても毎朝高確率で席に座れるのは唯一良い所だと思う。
(あ、席空いてる。あそこ座ろう)
俺はいつものようにパッと目に入った空いてる席を見つけては、静かに腰を下ろす。
「ふう…」
無事に席へ座れて胸を撫で下ろす。電車のドアが閉まり、後に車内がカタンカタン、と揺れ出す。
ブブッ…
電車が動き出したのとほぼ同時のタイミングで、スマホが手の中で震えた。
(…あっ、最近気に入ってたBL漫画更新された…!)
漫画アプリからのこの通知を受け取る度、俺は毎日どんな事でも乗り越えられる程の活力を得られる。
そう、俺はかなりの限界を極めた“腐男子”である。
(これ続き気になってたんだよなあ…帰りの電車で見よっと)
憂鬱で今すぐにでも家に帰りたいような月曜日だが、放課後に大きな楽しみが出来た。
(…ふあぁ…つーか電車の揺れって眠くなるんだよな…)
昨日も夜遅くまで漫画アプリでBL漫画を読み漁っていたせいで、かなり寝不足だ。
(駅着くまで寝るか…)
家の最寄りから学校の最寄りまではおよそ15分。仮眠するには丁度いい時間である。
(隣の人もいるし、寝方気をつけよう…)
隣の人に迷惑をかけないように、俺は十分な注意を払って静かに目を閉じたのだった。
そして俺はほんの数分、夢の中に入り込んでいた。
「…ん…」
10分程度経っただろうか。ふと電車の窓から差す陽の光が瞼の外側で眩しく感じられ、俺は目を覚ました。
「ん…?」
電車で寝ると大抵首が痛くなるはずなのに、今はやけに首が痛くなく、むしろ首が楽だ。そしてようやく俺はここで、隣にいた男性の肩に頭を預けている事に気がついた。
「す、すみません…!すみません…!!」
俺は慌ててバッと頭を上げた。寝ぼけていたせいで、起きてからの状況把握にも時間をかけてしまった。隣に座っていたのは、俺の高校の隣にある高校の生徒であった。
「ん?あー、別に」
この高校生は、未だ何も気にしていないようにスマホを見続けている。10分も横に座る他人の頭を自分の右肩に乗せていて、絶対に重かったであろう。
「重かったですよね、本当にすみません…すみません…」
「だからぁ…別にいいっつの」
彼はただ謝りに謝る俺に少し呆れた様な様子を見せながら、ここでようやくスマホを閉じ、こちらを見た。横顔からは横の髪の毛で隠れて見えなかったが、まじまじと顔を見てみると、とても端正な顔立ちをしていて、サラリとした塩顔。白いシャツを第二ボタンまで開けていて、細身な体格であり、チラリと鎖骨が顔を覗かせている。座っているから身長は分からないけれど。
「その制服、A高校のだろ。俺その近くのB高校だから、どうせ降りんの同じ駅だし、降りる時起こしてやろうと思ってた」
こんな全てにおいて完璧なイケメンがいるのか、と俺はつい見惚れてしまう。
「…あ、は、い」
自分とは全く縁がないような外見の高校生をまじまじと見たのは初めてだったからか、いきなり緊張感までも湧き上がってきて、口調がつい固くなってしまう。
「ふは、急に畏まんなよ」
(わ、笑った…)
ぶっきらぼうな雰囲気な彼が、ふっと笑った。ギャップについ俺は胸がキュンとしてしまう。彼は笑うとぷくりとした涙袋を作った。
そして、彼はまた再びスマホを手に取った。
「あ、あの!」
「ん」
「名前…教えて下さい」
俺は無意識の内に口が動いていた。聞くつもりなど、さらさらなかったのに。
「有馬 遥」
彼はスマホを見ながらであったが、すんなり名前を教えてくれた。断られるのではとヒヤヒヤしていたが、その必要はなかったようだ。
「遥…くん!」
「別に遥でいーよ。あと敬語やめろ。多分同い年だし。今二年だろ?」
「う、うん二年…! ていうか、何で同い年だって分かったんだ…!?」
「年上にはどう頑張っても見えねえから笑 顔幼いし。一年かなと思った」
「は!? どういう意味だよ!!」
この人は人を弄るのが好きなのか、早速からかわれてしまった。不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「ははごめんごめん。で、お前の名前は?」
「二見 伊吹…」
「伊吹な。確かに伊吹って顔してるわ」
「褒めてるのか、それ…」
「さあ笑」
お互いの名前を教え合い、友達として縁を結ぶことが出来た。数分前の俺には想像も出来なかった。
(つーか、なんで俺は遥の名前聞いたんだろ…聞く予定無かったのに)
そうして電車は俺達の学校の最寄りの駅へと到着し、さっき知り合ったばかりで友達になったばかりの遥と一緒に電車を降りることとなった。
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