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「え!? 好きな人出来た!?」
「しっ、うるせえよ声デカい…!」
俺は学校に着き、席につくなり中学からの親友、朔間 茉白に朝の出来事を伝えた。
「え、それは何?完全一目惚れってこと?」
「知らねえよ…でも初めてだったから、こんなにドキドキしたの…」
「へえ、お前も案外初心だな」
「う、うるさいな!!」
茉白は俺が男を好きなことも、BL漫画が好きなことも知っていて、一番楽に全てを話せる。万が一好きな人が出来たら、一番に言おうと思っていた。
「そいつの名前聞いたか?」
「聞いた。有馬遥…っていう子」
「有馬…!? 俺そいつ知ってる」
茉白から知らされた事実に、愕然とした。
「は!? 茉白が!? 何で!?」
俺はつい机をバンと叩き、席を立った。わいわいとしていた教室内は俺の立てた大きな音と声でシーンと静まり返った。
「い、伊吹、落ち着けよ、まず聞けって」
「あっ…ごめん」
俺は小さく萎むように席へ再度腰を下ろす。
「B高の有馬だろ? イケメンドS王子って言われてるぐらいで、ここら辺では結構有名なヤツだよ。いや、まさかお前が有馬と友達になるとは…」
イケメンドS王子…?遥が?
俺がまさかそんなヤツと友達になったなんて。開いた口が塞がらない。
「俺の友達の友達でさ、ツーンとしててイマイチどんな奴だか分からないって言ってた」
「そう、俺も遥の肩にもたれてるのに気が付いた時、ツーンとしてる人だったから怒られる、って思って超怖かったけど、案外優しかったんだよ…! ぶっきらぼうな感じはしたけど」
絶対に怒られる…と覚悟していたのに、怒られるどころか、停車駅で起こしてくれようとしていた。
イケメンだからドキドキしたというのもあるかもしれないが、ツンとして見える遥の優しさに触れたあの瞬間に、胸が高なったのである。
「へえ、よくお前が読んでるBL漫画のキャラみたいな性格してんじゃん笑」
茉白はニヤリと口角を上げた。俺は見事に図星を突かれた。
「だ、だから好きになった訳じゃないから…!」
「どうかねえ?」
…茉白には全てお見通しのようだ。
「ほらほら、お前ら席つけー」
ここで、担任の先生が教卓へと歩いてきた。
茉白に話したい事はまだ沢山あったが、一先ず一区切りし、先生の声に耳を傾けた。
「やっと昼だー…」
月曜日の授業はいつもに増して疲労感が大きいように思える。
四時間目を終えた俺は、茉白と机を向かい合わせに配置し、弁当の蓋を開けた。
「俺、昼休みはどうせ伊吹のマシンガントークに付き合う羽目になるだろうと思って覚悟してたからさ、相談乗ってやってもいいぜ笑」
茉白は弁当のおかずを頬張りながら言った。遥の存在を知っている茉白は、もしかすれば遥の情報を何か持っているかもしれない。
「俺も昼休みに遥のこと茉白に話そうと思ってたんだよ…! 茉白優しい…! なんでこんな優しいのに彼女いないんだろ」
「一言余計なんだよお前は!!」
「はは、ごめん」
「つーか伊吹、まず初めにイケメンドS王子に彼女がいるか確かめないとじゃね?」
茉白にいきなり、遥に彼女がいるかを確かめなければならないという難題を提示されてしまった。何故か心臓がギュッと掴まれるような感覚に陥る。
「…いたとしたら俺の恋はそこで終わりだよ…。いなかったとしても、どうせ女子達から爆モテなんだろうし」
遥には彼女がいても全くおかしくない。今は恋に落ちて浮かれている自分しか見えていなくて、遥に彼女がいたら俺の恋はどうなってしまうのかなんて、考えてすらいなかった。
まず、俺みたいに同性が好きなゲイはとても多くない。遥が異性が好きであるならば、絶対に俺は遥の眼中に入ることは出来ない。同性が好き、という俺に嫌悪感を抱かれてもおかしくない。
「そんな既に諦めモードに入ってるようじゃやってけねえぞ、伊吹。まず彼女いるかどうか聞いてからがスタートだと思うぜ」
「連絡先も知らないし、いつまた会えるかすら分からないんだよ…」
まともに現実の人を好きになったことがない俺にとって、恋の攻略法なんて何一つ分からない。アイツを一目見た瞬間に俺の中で咲いた一輪の花が、枯れずに綺麗に咲き続けていられるのか。まだ何も始まっていないのに、俺はつい萎むように小さくなってしまう。
「今日ぐらいの時間の電車で、今日と同じ車両に乗れば、また会えるかもじゃん?」
「うん。明日も今日ぐらいの電車に乗る。次はもっと話したいから」
今日出会ったばかりの人にこんなに視線を奪われるなんてこと、漫画以外に存在しないと思っていた。
「…会えたらいいな、また」
現在進行形で、遥ともっと仲良くなりたい、もっと遥のことを知りたいという想いが強くなっていった。
(…次会う日まで、俺も攻略法考えておこう)
俺は恋した自分を鼓舞するように、弁当に入っていたおかずを大きく頬張った。
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