題「いのち」

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 集落が点在する山奥にある、簡素な日本家屋に、ひとりの女性が向かっている。 車を路肩に停め、車から降りて紙袋をさげた女性は、家屋につくと、インターホンを鳴らした。 「はーい」 穏やかな若い男性の声がし、引き戸が開く。顔を出したのは、作務衣を着た大学生くらいの青年だ。 「あ、新木(あらき)さん。また来てくれたんですね」 「狛太(こまた)さん。今日は、仕事で福岡に行ってきたのでお土産を」  女性が紙袋を掲げると、狛太は 「先生は、いま裏手の庭の花に水をやってるんです」 と言い、庭の方へ歩き始めた。庭には、色鮮やかな桜、バラ、牡丹、百合、パンジー、マーガレット、など多くの花が咲きそめている。  また、きゅうりやなす、大根など菜園スペースもあり、自然に彩られた庭だ。  そこで、ひとりの着流し姿の男性が、白いバラの花に水をやっていた。
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