並びたつ隣人

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「静かにしてもらえんか!!!」 とある喫茶店でのこと。 電話で話す俺にイチャモンをつけてきた50代半ばの男。 俺は完全に男をシカトして外に出て話を続けた。 祝いの電話だったがムカムカが後からやってきた。 その時俺は決めた。このジジイより先には店を出てやらない、と。 一日は長いようで短い。 時間を使う用意は幸い出来ている。 「あいつまだいやがる」 とジジイは馴染みの店員に訴えに行った。 俺は思う。 『しめしめ効いてやがる』 俺は決めた。その日の使い方を。 たまには悪意でジジイに報復するのも悪くない。 時間はたっぷりある。そう、俺は世に言う ニート様。?まぁそう言う位置付けで悪くない。 ずぅっとそのジジイの横に座り居座り続けることにした。観察するとカメラを首からさげている。 明らかに席に戻った俺にイラだっている。 …気持ちがいい。 こちとらやることは山程あるのだ。 ニート様である俺は男の髪の毛が薄い事に気がついていた。 すぐハゲるタイプだな。 そこで俺は貧乏譲りをしてみた。 ゆさゆさゆさゆさ 気にならないような感じでジジイはカメラをいじっている。 暇そうなジジイだ。 宝の持ち腐れじゃないか? ジジイには勿体無い。 そこで俺は自分の携帯でジジイの様子を撮影して見てみることにした。 リュックの影にカメラを仕込みじっと見る。 ただカメラのレンズをぐるぐると廻しているだけだ。 なにやらしている様子があったジジイは レンズを動かしているだけ… これはジジイと俺の意地の張り合いか。 別に構わない。 またやることができた。 席をたったジジイ。 俺は休憩することにした。 約、3分後席に戻ってきたジジイ。 『3分しか持たないのか…』 俺の手元が気になるのか席に戻るときに チラッと視線を感じた。 リュックの影に隠れていた俺の携帯は、 すかさず前屈みになった俺の影に隠れた。 普通じゃねーな。 哀れジジイ。 俺はジジイがレンズを何回廻すかを数え上げてみようかと思ったが際限なく無意味なカリカリ音なので それはやめた。 ひたすらレンズを廻すジジイ。 貧乏ゆすりへの対抗か。 俺はなんでも入っているリュックに手を突っ込み、 編棒を取り出した。 カメラ持ちのジジイに 何故か編棒持ちの俺。 俺には不似合いな編棒で最低1枚の コースターを編み上げることを決めた。 俺は編んだ。指を伸ばして潜らせまた伸ばして潜らせた。ひたすらに編んだ。祖母に付き合って教えられた編み物は結構楽しい。 時間を忘れて過ごしている間にジジイのことをすっかり忘れてしまった。 ジジイだがまだいる。 俺の怒りはジジイの暇つぶしを邪魔する事で解消される筈だったが、しぶとい。 もうすぐコースター1枚が出来上がってしまう。 ジジイの暇は俺の暇より深刻なもののようだ。 なんでもいいゆっくりするか。 1枚…2枚… 2枚目に取り掛かった俺。 生産的行動を取る俺。 ジジイはあいも変わらずレンズをカリカリ廻している。人差し指で首から下げたカメラのレンズを。 ただ、こうして糸も紡がずカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ 俺は頼んだ紅茶を飲む事も忘れあむあむあむあむむむ。 男ながら祖母に教えられた編み物がこんなところで役に立つとは思わなかった。 2枚…2枚目が出来上がる。 きりの良いところで俺は編み物をやめる事にした。 ペアに出来上がったコースターは 奴のカリカリ音によって奴の中に溜め込まれた 苛々より有益に仕上がっている。 そこで電話だ。 ニート様の俺にも用事はあるがー やつにはカリカリしたまいにちだけ。 素晴らしく無益な日々なのだ。 コースター二枚仕上げたニート様の俺の一日とヤツのゴミみたいな日。 滓は屑を見る事で安らぐ、とは誰も言ってはいないが俺は安らぎを得た。 わかったことは俺のほうが仕事が早いということ。 侮蔑の目でジジイ(老人 を見ると未だにカリカリカリカリ。 しかもケーキなど頼んでいる。 俺のほうは最初に頼んだ紅茶一杯のみ。 ジジイは燃費も悪いらしい。 高性能な俺… 予定もあるんだ… わかりました、定時で帰りまーす。
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