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プロローグ 1.転生したけれど
ステンドグラスから色とりどりの陽の光が差し込み、敷かれた重厚な絨毯の上を歩いていく。
豪華なシャンデリアは眩く輝き、ドレスに散りばめられたスパンコールがきらめく。
深紅の長い髪を翻し、威風堂々と歩く少女は、学園の中で目を引く存在だった。
(そう。どうやら私は、大人気乙女ゲーム、「カルテット・シンデレラ」の中の世界に転生してしまったようだ)
しかも、ヒロインが敵対する、恋のライバルであるいわゆる悪役令嬢キャラ、レベッカ・エイブラムに。
転生前の生活といえば、毎日夜遅くまで必死に仕事をし、一人暮らしの家で化粧も落とさず倒れるように寝て、また朝早く出勤する典型的な社畜だった。
疲れてもエナジードリンクを流し込み、終わらない時は家に帰ってからも残業。
そんな毎日を送っていたら体を壊すのも当たり前で、市販の薬を飲んで寝ていたらどんどん熱が上がり、誰にも助けも呼べぬまま意識は朦朧としていった……。
目が覚めたら、豪華なベッドの上だったのだ。
このゲームは大人気なソシャゲで、いつも行き帰りの電車の中でプレイをしていたので、すぐにわかった。
全てのキャラのルートをコンプリートし、季節ごとの限定イベントスチルも回収していたほど、久々にハマったゲーム。
転生したキャラがヒロインのリリアではなく、悪役令嬢であるレベッカだというのが、少し残念だったが。
しかしそれでもいい。
きっと前世の自分は高熱を出し死んでしまったということも、悪役令嬢のレベッカはどのキャラのルートに行ってもリリアの恋路を邪魔した不敬罪で国外追放されるということも、どうでもよくなるほどーーー。
この世界のファッションが素晴らしい!
物心ついた時から女の子らしいファッションが大好きで、お人形遊びで使うドレスを記念日のたびに親にねだっていた。
そして服飾の専門学校に入り、卒業課題では中世ヨーロッパでマリーアントワネットが着ていたような荘厳なドレスを手縫いで作り、教師を唖然とさせた。
きらびやかで美しいドレスやヒールやネイルやアクセサリー、その全てが憧れだった。
しかし、世の中の流行りは「シンプル」かつ「プチプラ」らしい。
無地のTシャツやAラインのワンピース、アースカラーのセットアップが確かに着回しに向いているのもわかる。
でも私は、フリッフリのレースがついたドレスを作りたい!
オーバーサイズや、メンズライクの大きめの服が、締め付けられず楽で、洗いやすいのも確かにわかる。
でも私は、胸は強調しウエストは絞る、女性らしい体のラインを見せられるドレスを売りたい!
ずっとそう思っていた。
しかしそんなものは需要はなく、就職できたのはまさにシンプルでプチプラが売りのブランド。
感染症が流行し、服も売れず、オンライン通販に特化したことでなんとか営業成績は保ったが、リモートワークでさらに業務は激化していき……倒れて今この世界に生まれ変わったという顛末だ。
乙女ゲームの世界だけれど、私的には恋愛は二の次だ。
とにかく素敵なドレスを着たいし、自分の思うがままの服を作りたい。
ヒロインのリリアの邪魔をするつもりはないので、お好きに王子でも公爵様でも伯爵様でも騎士でも選んで溺愛ルート入っちゃってください。
「カルテット・シンデレラ」はタイトルの通り、四人の攻略対象の男性キャラに愛される夢のような逆ハーレムを味わえることで人気だったのだ。
貴族の御令息やご令嬢たちが、勉強や社交界の常識を学ぶための、全寮制の学園。
ここで恋愛をし、婚約者を迎えれば将来は安泰なため、生徒たちは常に異性を意識している。
リリアが誰のルートを選んでも、悪役令嬢である私、レベッカは国外追放になるようだが、処刑されたりと命の危険は無いようだし、追放先の町で小さな服屋さんでも開こう。
エイブラム家は優秀な父や兄のおかげで安泰なようだし、娘が追放されてもそのくらいの出資はしてくれるはずだと勝手に考えていた。
なので、悪役令嬢ですが、ヒロインの邪魔をするつもりはありません。
前世心残りだった大好きな服を作って、静かに暮らしたい。
そう思っていた。
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