3、君は誰だ?

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3、君は誰だ?

まるでレベッカがリリアを突き飛ばしたかのような雰囲気で、廊下の空気は張り詰めていた。 「リリア、大丈夫かい?」 後ろから男性の声がかかり振り返ると、そこには金髪の美青年が駆け寄ってくるところだった。 「ユリウス様……!」  リリアはパッと表情を明るくし、駆け寄ってきた青年に笑顔を向ける。  それもそのはず、彼はユリウス・テイラー。 このゲームのメインヒーローであり、この国の皇太子である。  つまりはイケメンで最強にハイスペック、しかも性格のよく物腰も柔らかい、乙女ゲームで人気の王道キャラである。  その後ろからはユリウスの友人であり、クールが売りの公爵、クロードが近づいてきた。  金髪のユリウスと対照的な銀髪をもち、切れ長の目が印象的である。  そしてこちらも、文句のつけどころがないほどの一級の美形。  無表情でじっと、ことの顛末を見守っているようだった。  ユリウスがリリアの側に近寄り、リリアを心配そうに見つめている。 (ああ、ここで確か悪役令嬢のレベッカが、ヒステリックに負け惜しみ的なことを叫ぶんだったなぁ)  そしてヒロインリリアの選択肢で、ユリウスかクロードどちらに話しかけるのか出てくるんだった。  ゲームのストーリーを思い出しながら、内心ため息をつく。  濡れ衣な状況で、ヒステリックに叫んだら自分が突き飛ばしたんだと、罪を被るようなものだ。  少しでもこの四面楚歌な状況を変えようと、レベッカは素直に頭を下げた。 「申し訳ございません。  私が道幅を誤り、リリア様にご迷惑をかけてしまったようですね」 突き飛ばしたのではなく、あくまで少し近くを歩きすぎてリリアがよろけてしまったのだということを強調する。 しかし、素直に謝ったレベッカが意外だったのか、リリアとユリウスは目を見合わせている。 「お詫びと言ってはなんですが、よかったら少しここでお待ちいただいてよろしいでしょうか」 レベッカが頭を上げ、すまなそうに申し出ると、 「え、ええ……?」 困惑したリリアが同意の返事をしたので、すぐに自分の部屋へと引き返した。 レベッカの部屋はすぐ近くなので、バタバタと駆け足で扉を開け、衣装室の中から目的のものを手に取り、道を引き返す。  戻ると廊下にそのままリリアとユリウス、クロードは律儀に立って待っていた。 「こちらを、リリア様に差し上げたいのです」  レベッカは、部屋から取ってきた新品の靴をリリアに差し出した。 「この靴は……?」  受け取りながら、不思議そうに眺めるリリア。 「今履いてらっしゃる靴は、ヒールが高く細いので、転倒しやすくて危険です。華奢な足首に負担がかかります」  15センチはあるように思えるピンヒールを履いているリリアを見て、元アパレル定員の血が騒いでしまったのだ。  身長が低いのを気にしているのかもしれないが、あんな細いピンヒールを履くなんて、転ばない方が難しいだろう。  自分の部屋の衣装室には大量のドレスやアクセサリー、靴が置いてあって、狂喜乱舞で全部試着して鏡の前で楽しんでいたものだから、この靴の存在を思い出したのだった。 「こちらは太めのローヒールで安心ですし、バンドもついており脱げづらい。  でも子供っぽくならないようにポインテッドトゥパンプスになってます」 「ポインテッド……?」 「つま先が細く尖っているんです。  でも見た目より歩きやすいですよ」  前世での言い方なので知らなかったのだろう。  靴の先が尖ってはいるが、そこに足の指は入れないため、ミュールなどのように足が痛くなることは比較的少ない種類だ。 「これならリリア様に似合いますし、きっともう転んだりはしないかと思います。  お詫びと言ってはなんですが、よかったら受け取ってもらえませんか?」  正ヒロインのご機嫌取りもしつつ、その人の体型に合った靴を履いて欲しいと思う、天性のアパレル定員の気持ちで、レベッカはリリアに問いかける。 「あ、ありがとうございます……!」  リリアはそのパンプスが気に入ったのか、胸元で抱えながら優しく微笑んだ。  どうやら、突き飛ばした(冤罪)件に関しては、不問にしてくれそうだ。 「リリア、部屋まで送ろう」  ずっと隣で話を聞いていたユリウスは、リリアの手を取り紳士的に促した。 「ひねった足首は、念のため冷やしてくださいね!」  腫れてしまったら、痛くてあげたパンプスも履けないだろう。  レベッカが声をかけると、リリアは振り返り小さく頷いて、ユリウスの横を歩き去っていった。  ふう、とレベッカが息を吐く。 (悪役令嬢というキャラは、周りのキャラからの好感度が本当に低いんだなぁ……)  まさか突き飛ばしていないのにそんなことまで言われるなんて、すでにこの世界で過ごしていくのが不安になってしまった。  ま、私はドレスが着れて、作れればそれで良い。  自分の部屋に戻ろうと振り返ると、そこに人影があることに気がついた。 「クロード様、いらっしゃったのですか」  そうだ、ユリウスの友人のクロードが居たのだった。    銀髪に、青色の瞳が特徴的の美青年と目が合い、思わず胸が高鳴ってしまう。  クロードは何かを考えているかのように眉根を寄せ、レベッカを見つめてきた。 「レベッカ、君は……」  よく通る低い声が、高い天井に響く。  何かを言おうと思案して一度唇を閉じたが、意を決したように語る。 「君は、一体誰だ?」  銀髪の美青年、クロード・ライネス公爵は、まるで信じられないものを見たかのように呟いた。
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