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1話 おっさん、マホタイを去る
東京は桜田門、街を見下ろすようにそびえ立つ警視庁本部庁舎。
その姿は、まるで巷に蔓延る悪党に目を光らせているような存在感があり、市民生活の安全と平和を保障するシンボルに近いものがある。
その玄関口から、何やら段ボールを抱えた男が現れた。現場に向かう捜査員のように機敏な足取りではなく、くたびれたベージュのコートを羽織っている。
その背中を追って、同じように玄関口から背広姿の若い男が出てきた。
「斑鳩(いかるが)さん!」
呼びかけに振り返った男は、無造作な短髪に白いものが混じっており、歳のころは四十を過ぎた頃というところだった。
「ひどいじゃないですか、何も言わずに行こうとするなんて」
「挨拶は朝済ませただろ。俺に声かけるくらいなら、職質でも行ってこい」
「そんな……話くらいさせて下さいよ。今の俺があるのは斑鳩さんのおかげだっていうのに」
鼻を啜る青年の肩を叩いて、男はぎこちなく笑った。
「いいか雲雀田、今じゃお前がマホタイのエースだ。よろしく頼むよ」
去って行く男の背中に、青年は深々と頭を下げた。
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