私を口説けません!

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 朝になって、ひなみに戻った。  もうじょうにはなれない。  最後にじょうを乗っ取った昨日のことは、鮮明に思い出せる。  トイレを出た後、〝ひなみ〟のところへ戻って開口一番、 「さっきはどうかしてた。明日にはいつもの僕に戻ってるから、安心して」  と、手を合わせて言った。  〝ひなみ〟は一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、すぐに、 「何があったか分からないけど、いいよ」  と、ほほえんだ。  そうして水族館を出て、お互いの帰路についた。  じょうの部屋に着くと、抗っていた強烈な眠気に背中を押され、ベッドへ沈みこんだ。  もうじょうの体を乗っ取ってやりたいことなんてない。  憧れのじょうになれてよかった。  だから改めて分かったの。  じょうは憧れで、その憧れに私はなれなくて。  私の想いは、憧れが恋慕になったもので……  意識がぼんやりと遠のいていく。  じきに私は眠りに落ちて、魔法が解けた。  スマホを開く。  LINEのじょうとのトーク画面へいく。  じょうを乗っ取っていた記録が、そこにはたしかに残っている。  この思い出だけで充分。  私のままで、生きていける。  乗っ取ったことで、じょうには隠している恋人がいることが分かったけれど、私の片想いはしばらく続いちゃうんだろう。  恋人がいることを理由に消せちゃうほど、私の想いは簡単じゃないみたい。  でも、大好きなじょうの幸せを願っているし、私も今の幸せを守りたいから。  告白はしない。  この恋心は密かに隠して、なるべく長くじょうのそばにいたい。  さあ、飽きるまで、秘密の片想いをしていよう。  私は勢いよく布団を蹴飛ばして、ひなみの一日をはじめた。
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